守れるものならばと。
地下の静けさの中に複数の息づかいが響く。
「、キミに神田を背負うのはキツイでしょう?怪我もしてるみたいだし、かわりますよ」
アレンが言うが、は真っ直ぐ前を向いたまま歩を進め続ける。
「怪我をしてるのはアレンもでしょ。こいつは、私が運ぶ」
「・・・はい」
言っても無駄だと悟ると、アレンはそれ以上は言わなかった。
(近くにいたのに気づけなかった。トマのことも、人形たちのことも。もっと周りに気を配っていれば、こんなに、傷つけずにすんだのに)
ギリ、と奥歯を噛みしめる。後悔しても過ぎたことだが、後悔せずにはいられなかった。
歩き進んでいると、歌が聞こえてきた。人形の歌声だろう。しかしこれは、女の声。
(やっぱり、あっちが・・・)
歌を頼りに歩いていくと、広い場所に出た。そこにはグゾルとララの姿があった。二人の話し声が静けさの中に響く。の予想通り、人形はララの方だったようだ。ララはらがそこにいることに気づくと、辺りにある石柱を持ち上げて投げてきた。
「どわたっ!!?」
「すごい怪力・・・」
「感心してる場合ですか!」
そう言い合っている間にも石柱はとんでくる。アレンはトマを安全な場所に座らせ、左腕を発動させた。は神田を背負ったままトマのそばにしゃがみ込み、彼らを見守った。アレンは左腕でララが投げてきた石柱を受け止め、それをブーメランのように投げ飛ばした。まだ無事だった石柱が次々と砕かれていく。
「これでもう投げられる物はありませんよ。お願いです、何か事情があるなら教えてください。可愛いコ相手に戦えませんよ」
「・・・・・」
アレンの言葉に少し間をおき、ララは口を開いた。
「グゾルはもうじき死んでしまうの。それまで私を彼から離さないで。この心臓はあなた達にあげていいから・・・!」
神田を、彼とアレンの
団服を布団代わりに寝かせ、ララの話を聞いた。トマはひとまず自力で起きあがれるくらいには回復していた。
「は大丈夫ですか?」
「・・・大丈夫」
これくらい、神田の傷に比べたら。は一度目を伏せ、ララとグゾルに目を戻した。マテールの亡霊、歌う人形ララは、この500年で唯一グゾルにだけ受け入れられたらしい。だからグゾルが死ねばどうでもいい。せめてグゾルの寿命が尽きるまで一緒にいさせて欲しい。
「・・・・・」
そうしてやりたいのはやまやまだが、正直この状況下でそんな余裕はない。一刻もはやくイノセンスを手にして教団に戻らなければ、こっちが全滅しかねない。は否と告げるために口を開こうとした。
「ダメだ」
だがそれより前に否定の言葉が響き、発生源に視線が集まる。傷だらけの神田が意識を取り戻して身体を起こしていた。
「その老人が死ぬまで待てだと・・・?この状況でそんな願いは聞いてられない・・・っ。俺達はイノセンスを守るためにここまで来たんだ!!今すぐその人形の心臓をとれ!!」
「!?」
アレンの表情が驚愕に染まる。アレンは、どうするか。は黙って見守った。
「俺達はなんの為にここに来た?」
「・・・と、取れません」
アレンの発言に神田の瞳孔が開く。もそれはさすがにと驚いてアレンを凝視した。
「ごめん、僕は取りたくない」
「アレン・・・」
直後、アレンに黒の団服が投げつけられた。
「その
団服はケガ人の枕にするもんじゃねェんだよ・・・!エクソシストが着るものだ!!」
そして彼は自分のコートを、吊っている左腕以外で着ると、アレンの横をすり抜けていく。
「犠牲があるから救いがあんだよ、新人」
その右手には彼のイノセンス、六幻。六幻の斬っ先を、ララに向ける。
「お願い、奪わないで・・・」
「やめてくれ・・・」
非道だとは思う。だが、状況が悪い今はこれが最短で最善なのだ。せめて見守ろうとが彼らを見た、その時。
「じゃあ僕がなりますよ」
アレンがララたちの、神田の前に立ちふさがった。自分が二人の“犠牲”になると言う。彼らの望む最期を叶えるために、自分がアクマを破壊すると。はこの状況でそんなことを言ってのけるアレンに対して複雑な思いを抱いた。“人間”の思いとしては道理だろうが、しかし“エクソシスト”としては如何なものか。アレンはさらに続けた。
「犠牲ばかりで勝つ戦争なんて、虚しいだけですよ!」
直後、神田の拳がアレンの左頬をとらえる。その衝撃で神田は立ちくらんで、アレンは尻餅をついた。
「とんだ甘さだな、おい・・・。可哀相なら他人の為に自分を切り売りするってか・・・?テメェに大事なものは無いのかよ!!!」
「自己犠牲は“強さ”じゃないよ、アレン」
「・・・・・」
神田の怒声との静かな悟しをきき、アレンが口を開く。
「大事なものは・・・昔失くした。可哀相とかそんなキレイな理由あんま持ってないよ。そういうトコ見たくないだけ。だから、自己犠牲ってのは・・・ちょっと違うかな。・・・否定はできないけど」
アレンが苦しそうに、切なそうに微笑う。
「僕はちっぽけな人間だから、大きい世界より目の前のものに心が向く。切り捨てられません。守れるなら守りたい!」
刹那、グゾルとララを、鋭利なモノが貫いた。
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