激情に舞う白き羽根





















少女―ララが言うには、この町には地下住居があり、町の外へ続く道もあるらしい。このまま外を走るより、地下へ隠れた方が安全ではないかと。彼女の言う通りひとまず地下へ向かった方がいいかもしれないと建物の上から降りた時、トマから通信が入った。アレンの安否は不明。今アクマはティムキャンピーを追いかけ回しているとの事。そういえば、とリーブンの姿を探す。フードの中でしっかりしがみついているのを確認して安堵した。後はアレンだ。彼の事は気がかりだが、今優先すべきはイノセンス。このイノセンスは人形の心臓で、このグゾルという老人が、マテールの亡霊だと言う。


(あれ?でも・・・)


ふと思う。先ほどララを抱えた時、“人間らしい感触”がしなかった気がしたのだが。気のせいだったのだろうか。小さく首を傾げたところで、トマが戻って来た。


「悪いがこちらも引き下がれん。あのアクマのお前の心臓を奪われるわけにはいかないんだ。今はいいが、最後には必ず心臓を貰う。巻き込んですまない」

「・・・・・」


これくらいの態度でアレンにも接する事ができれば、と考えて首を振った。初対面は武器の向け合いだったらしいし、そう簡単に変わるものではないだろう。今は置いておくしかない。トマがかき集めてきたティムキャンピーの残骸が元の形へと戻る。そしてティムキャンピーが見て来たアレンとアクマの戦闘映像を観た。この機能は従来のゴーレムには無く、の知る限りクロス製のティムキャンピーとリーブンにしかない特殊機能だ。


「何かで姿を映し取り、それを被る・・・。ただし、映した姿は鏡のように真逆・・・といったところか」

「これ、左腕の能力も映し取られてるよね。逆だから右腕になってるけど」

「やっかいなモンとられやがってあいつ・・・」


舌打ちが聞こえた。二つの意味で溜息をもらしてグゾルとララを振り返り、は愕然とした。


「逃げられた!」

「何!?」


すっかり油断していた。まさか逃げられるとは。どこへ行った、と辺りを見渡した時、トマが背後を振り返った。


「神田殿、殿、後ろ・・・」


言われて二人も振り返る。そこには、左右が反転したアレンの姿があった。


「どうやらとんだ馬鹿のようだな」


神田が六幻を抜刀する。だがどうもヤツの様子はおかしい。覇気がまるでなく、微力を引き絞って歩いているような、そんな。


「カ・・・ン・・・ダ・・・ド・・・ノ・・・」

「!」

「災厄招来!」

「待っ・・・!」


が何かに気づいて止めようとするが、遅かった。


「界蟲一幻!無に還れ!」


六幻から放たれた一幻が偽アレンに向かっていく。しかしそれはそいつには当たらず、寸でで何かによって阻まれた。


「ウォ・・・ウォーカー殿・・・」


ぐらりとそいつの身体が倒れる。そいつをかばったのは、横穴から顔を出した本物のアレンだった。当然ながら、神田はアレンに怒声を浴びせる。は、直感的に神田から・・・否、トマから距離をとっていた。


「神田、僕にはアクマを見分けられる“目”があるんです。この人はアクマじゃない!」

「この人、“神田殿”、“ウォーカー殿”って言った。もしかしたら・・・」

「これは・・・」


アレンがそいつの顔に切れ目があるのを見つけて、皮を剥いだ。


「トマ!!?」

「何・・・っ」


偽アレンの皮の下から出てきたのは、ぐったりしたトマだった。ということはやはり。


「そっちのトマがアクマだ、神田!!!」


直後、神田の身体が吹っ飛び、六幻が地に突き刺さった。アクマはアレンの姿を映した皮をトマにかぶせ、自分は左右対称シンメトリーでバレそうにないトマの皮をかぶっていたのだった。が六幻を拾い、アクマに首を掴まれている神田に駆け寄ろうとした、その時。神田の身体に、アクマの一閃が斬りつけられた。


「―――!!!」


声にならない叫びがの口から放たれる。そのまま崩れ落ちて地に伏してもおかしくない傷なのに、神田は踏みとどまって倒れはしなかった。


「アレ?死ねよ!」


殴られても、神田は揺るがない。多量の血が滴り落ちた。


「死ぬかよ・・・。俺は・・・あの人を見つけるまで、死ぬワケにはいかねェんだよ・・・」

「・・・ッ!!」


頭に血が昇り、背中がざわつく。こらえろ、こらえろ。怒りに支配されてはいけない。大丈夫だ、神田なら大丈夫だ・・・・・・・・。そう思って感情をコントロールしようとするが、傷つき、立ったまま意識を失った神田を目にすると、一気に溢れだした。


「う、あああああッ!!」


バサッとの背で広がるものがあった。


「なんだよ、お前ッ!なんだァその羽!」


アクマがの方を向いて叫ぶ。の背には、真っ白な翼が在った。


「第一翔・羽雨天降!!」


が手を振り上げると、幾数の羽根が宙へ飛ぶ。


「針山となれ!!」


そして手を振り下ろすと、一斉に天から羽根が降り注いでアクマを襲った。


「いっててええ!なんだよこれ!だけど・・・効くかぁぁっ!」


羽根が何十本も刺さっているのにもかかわらず、アクマはアレンの腕で降り注ぐ羽根を薙ぎ払った。はらりと幾つもの羽根がスローモーションで地に舞い落ちる。呆気なく防がれ、に動揺が走った。その隙を、ヤツは見逃さなかった。次を放とうとしたの背後に、アクマが素早く回り込む。


「コイツ壊しゃオシマイだろ?」

「・・・ッ!」


完全に避けるのは、無理だ。アクマがアレンの腕を振り下ろした瞬間、なんとか身をよじってイノセンスへの直撃を避ける。


「ぐ・・・あ・・・ッ!」


背中を鈍い衝撃が襲った。の身体が地を滑り、神田の足元で止まった。


「なぁんだ、大した事ねェなぁ」


アクマがとどめをさそうと近づいてくる。身体が思うように動かない。全壊は防げたが、イノセンスへの直撃を完全に防ぐことはできなかったようだ。アクマが腕を振り上げる。歯を食いしばった時、今度はアクマの身体が吹き飛んだ。なんとか身体を持ち上げると、そこにはアレンの姿があった。は神田の呼吸を確認すると、六幻をしっかり手にして神田を背負った。


「・・・ッ!!」


背中に激痛が奔るが、泣き言は言っていられない。


「アレン、トマを!」


はんば神田を引きずるようにしながら辺りを見渡す。アクマが動けないうちに少しでも遠くへ行かなければ。ふと床に仕掛けがあるのを発見し、らは地下へと避難した。























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