ゼムは目の前で起きていることに動揺していた。が操られて神田に攻撃を仕掛けようとし、神田もまたに六幻の切っ先を向けている。
「か、神田さん!相手はさんですよ!?」
「んなことわかってる」
「戦うんですか!?さんと!!」
「・・・・・」
神田はゼムを一瞥しただけで、すぐに目を戻した。
「な、なんだよ、何が起きてんだよ!?」
「あ、ちょっと・・・!」
目を塞がれたままで状況が把握できていないトーマが暴れ、ゼムの手を振り払った。そして、そこにいる
「何・・・あれ・・・父さんは・・・?」
「あれはアクマ・・・キミのお父さんは、もうすでにいなかったんだ」
「どういう、こと・・・?」
トーマが動揺を隠せずにいるのを傍目に映したあと、神田とが動いた。羽根が舞い、六幻の一幻が疾る。
「多分2ヶ月前、お母さんが亡くなった後に、お父さんはお母さんを生き返らせようとしたんだ。でも、それは生き返らせることではなく、アクマの製造・・・。アクマは人の身体と魂で造られる。お父さんはお母さんの魂で、アクマを造ってしまったんだ」
羽根が神田にいくつもの小さな傷を作っていく。
「アクマは殺人マシン・・・人を殺すことで進化していく。行方不明になった人たちは、あのアクマに殺されたんだ」
「そん、な・・・。でも、じゃあ、なんで・・・おれは」
生きてるんだ。真っ先に殺されてもおかしくなかったのに。ゼムはその疑問に応えられる答えを持っていなかった。
「・・・チッ」
「神田さん!」
「いいからお前はそのガキ守ってろ!!」
やはり相手だと戦いづらいのか、神田は苦戦していた。操られているは容赦なく神田に羽根の雨を降らせる。
「いやー、すごいねぇエクソシストって。丈夫だし、強いし。見てるだけで楽しいねぇ」
アクマがケラケラ笑う。レベル2になって自我をもったアクマは、2人が戦う様子を“楽しんで”いた。
「・・・せよ」
「・・・トーマくん?」
「返、せよ・・・」
トーマが震えている。
「父さんを・・・返せよ!!」
「だめだ!!トーマくん!!」
トーマがゼムの手を完全に振り払って走り出した。向かうのは、アクマの元。トーマはその辺りに転がっていた分厚い本を拾い上げ、アクマに投げた。
「返せ・・・っ、父さんを返せー!!」
「うるさいなぁこのガキ。返せも何も、この男がバカやっただけだよ?」
投げられた本をいとも簡単に避け、腕をガトリングに変型させる。
「邪魔」
派手な音が響いた。間に合わない、とゼムの全身から血の気が引く。だが爆炎がおさまった時そこにあったのは、アクマの毒によって砕け散ったトーマの姿ではなかった。
「・・・ッくそ」
「神田さん・・・!?」
装備型の神田にとってアクマの毒は致命傷のはずだ。ゼムは自分の身体が震え始めるのを感じた。
「に、兄ちゃん・・・っ」
「うるせぇ・・・っ」
神田の身体に浮き出たペンタクルが徐々に消えていく。信じられない光景に、ゼムは目を見開いた。
「・・・ッゼム!!」
「はっ、はい!!」
大声で名前を呼ばれ、心臓が跳ねる。
「このガキ守れっつっただろうが!てめェも探索部隊なら仕事しやがれ!!」
「・・・ッ」
バカだ。なんてバカなんだ。ゼムは自己嫌悪に陥りながら、神田の後ろにいるトーマを引き取りに走った。そして今度こそしっかりと自分の後ろに隠してさげる。
「なんで効かないの?実は寄生型なの?キミ」
「うるせぇ」
大きく息を吐く。すでに神田の身体から毒は消え去っていた。再び、神田とが打ち合いを始める。
「しっかり足止めしといてよね。邪魔者は消しちゃうからさ」
「ひっ・・・とう・・・」
「・・・・・っ」
「バイバーイ」
しまった、と神田が向いた時には遅く、ガトリングは放たれていた。爆煙で2人が見えなくなるが、は攻撃の手を休めてはくれない。
「・・・・・・・・・トーマくん、無事かい?」
「・・・う・・・うん・・・!」
みるみるうちにゼムの身体が赤黒く染まる。
「かん、だ、さ・・・ん・・・ぼくにも・・・まも、れ・・・ま・・・し・・・」
ピシ、とヒビが入り、呆気なく崩れ落ちた。目の前で起きたことに、トーマは一瞬息を忘れる。アクマの毒ガスが体内に入ってくらっと頭が揺れるが、なんとか踏ん張った。
「う、あああああああ!!!」
それは恐怖が絶望が悲しみか。その声が引き金となった。神田がに向けて走る。数えきれない無数の羽根が神田に飛ぶが、それを六幻で弾けつつ走る。の目の前まで来ると、彼は、彼女の頭を左腕で抱え込んだ。
「大丈夫だ」
の目がスローモーションのようにゆっくりと見開かれる。スー・・・との目に色が戻っていく。
「・・・・・ユ、ウ・・・ごめ・・・」
全身の力が抜け、はがくりと膝を折った。それを神田がそのまま左腕で支え、六幻の切っ先をアクマに向けた。
「あとはテメェだ、アクマ」
「洗脳を解くとは・・・」
は未だ力の入りにくい身体をなんとか持ち上げ、トーマの足元に散らばる“死骸”を目にする。自分が洗脳されなければ、こんなことには。
「アクマを・・・破壊する!!」
再び、バサリと翼が広がる。
「これで終わりだ」
2人のエクソシストが、アクマへとイノセンスを向けた。