闇の誘い





















は神田と共に任務を言い渡され、とある洋館の近くにいた。どうやらこの付近で女性の行方不明者が続出しているらしい。この洋館は街道近くにあるため目撃者も少なくはなく、普通に歩いていたのに突然ふらりと洋館の方へいってしまうのだとか。慌てて追いかけて行く人もいるのだが、共々戻ってこないのだという。それってイノセンスと関係あるのかと少々首を傾げる内容だが、コムイにも思うところがあるのだろう。室長命令に背くことはできず、と神田、探索部隊のゼムの3人はここに出向いたのだった。

「様子はどうだ?」

「いまのとこはなんともないよ」

女性ばかりが対象、ということでも様子を警戒しつつ、街道に立っている。

「ねぇユウ、やっぱり私が「駄目だ」・・・でもこれじゃ埒が「コムイにチクるぞ」・・・はーい」

元々釘を刺されていた。「ちゃん、自分が囮になる、なんて馬鹿なこと言わないようにね。神田くん、ちゃんと止めてね」と。しかしこのまま突っ立っていても仕方がないように思えてきて、はもどかしく感じていた。



















陽が傾いてきた。町にとっている宿に戻るか、と神田が踵を返そうとした時、に異変が起きた。

「・・・?」

神田とゼムが移動しようとしても、神田が呼んでも、微動だにしない。

「おい、、どうした?」

「・・・・・」

返事はない。それどころか、神田の声を無視して一歩、また一歩と踏み出し始めた。

さん!?どこへ・・・」

「待て、様子がおかしい。これは・・・」

ゼムがを引き留めようとするのを神田が制する。これはまさか、行方不明になった女性達を同じ事がの身に起こっているのではないか。

「・・・追うぞ」

遠くなく近すぎもしない間合いまでが歩いたのを見て、神田とゼムも跡を追って歩を進めた。



















が行きついたのは例の洋館だった。ギィィと音を立てて扉を開き、中へ入って行く。見失わないように2人はあとを追い、洋館の中へと駆け込んだ。カーテンは閉め切られており、灯りも最低限しかない、薄暗い空間だった。その中をは苦ともせず歩いて行く。中央の階段をのぼり、先へ行く。神田達も急ぎあとを追おうとした。

「ねぇ、兄ちゃんたち、誰?」

「!?」

だが不意に後ろから声を掛けられて驚き、2人は振り向いた。10を過ぎたくらいの少年が、そこにいた。

「な、なぜこんなところに子どもが・・・」

「なんでって、ここ、おれんちだし」

「・・・ここに住んでんのか」

「うん」

行方不明者が行く着く場所に住んでいるとはどういうことか。思いを巡らせようとしてハッと気づき、中央階段を振り返る。の姿はもうそこにはなかった。

「しまった・・・!!」

さんがいなくなってる!」

「さっきの姉ちゃん?多分父さんのとこだよ」

少年は2人の横を通り過ぎて中央階段に向かう。

「父さん、人の悩みをきいてあげてる・・・・・・・・・・・・んだって。母さんが死んでから始めたんだ」

「・・・お前の母親が死んだのはいつだ」

「2か月前だよ」

最初の行方不明者が出たのも、確か2か月前。

「神田さん、これって・・・」

「あぁ・・・ある意味アタリ・・・だ」

「?」

2人の会話についていけず、少年が首を傾げる。

「坊主、お前の父親の所まで案内してくれ」

「いいけど、おれはぼうずじゃなくてトーマ!」

「それじゃトーマくん、案内頼むよ」

「うん!」

トーマは2人に「こっち」と言うと、中央階段を右へ上がって行った。



















薄暗い屋敷の廊下に3人の足音が響く。

「トーマくん、こんなに暗くて怖かったり不便はないのかい?」

「んー・・・最初は嫌だったけど、もう慣れたかな。母さんは死んでから、父さんすごく落ち込んじゃってさ。でも、おれにはそんな姿みせねぇの。おれは母さんが死んでたしかにさみしかったけど、父さんがいるから大丈夫なんだけどなぁ。なんか、この方がいいんだってさ」

「・・・・・」

薄暗い所を好む性質というわけではないが、この方が“造り”やすかったのだろう。しかしなぜ、この少年は生きているのだろうか。なんとなく、疑問を覚えた。

「ここだよ」

やがてトーマが足を止めた。通り過ぎてきた部屋とは一風変わった扉。

「・・・ゼム、念の為にトーマを守ってろ」

「は、はい」

「え、なに、なんなの?}

神田に言われ、ゼムはトーマを後ろに隠した。神田は扉に手をかけつつ、いつでも六幻を抜刀できるよう気を巡らせる。

「行くぞ」

神田が、扉を開いた。重い音をたてて開かれた扉の先には、1人の男と見知った少女の後ろ姿。

「おや、お客さんかい?これは珍しい事もあるものだなぁ」

どちらかというと優男である。彼は笑みを浮かべながら神田に目を向けた。

「トーマが連れてきたのかい?」

「う、うん」

なんとなく、様子がおかしいことを感じとったのだろう。トーマがゼムの服をぎゅっと握った。

「そうかそうか・・・エクソシストのお客さんだ・・・しっかりもてなしてあげないとなぁ・・・!」

グシャ、と異質な音が耳についた。ゼムが咄嗟にトーマの目を手で塞ぐ。神田の舌打ちが部屋の中に消え入った。

「釣れた女がエクソシストだったことにも驚いたが、それを追ってノコノコ来るとは、エクソシストってのはバカなんだなぁ」

「とう・・・さん・・・?」

目を塞がれたままトーマが呟く。明らかに違う事に気づいたのだ。だがヤツ・・はおかまいなしに口を開く。

「ワタシの術は、心に隙がある女の脳を痺れさせ、操るもの・・・。、といったかな。さぁ・・・キミの大事なオトモダチの相手をしてあげなさい」

今まで反応なく背を向けていたが、ゆっくりと振り向いた。その目は虚ろで、何もうつしていない。神田が再び舌打ちした。

「さぁ、遊んであげなさい」

バサッと音がし、白いモノが広がる。薄暗い部屋の中でそれは、光っているように見えた。

「・・・馬鹿が」

「神田さん・・・!?」

小さく呟き、神田は六幻を抜刀する。そして、その切っ先を、へと向けたのだった。





















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