新たな入団者





















コレデマタ、サンニンイショダヨ、



















悪夢、と呼ぶべきなのだろうか。荒い呼吸に奔る動悸、滲む汗。身体を起こして深呼吸を繰り返すと落ち着いてきた。


「久しぶりに見たな・・・」

何かの予兆だろうか。嫌な事でなければいいがと思いながらベッドから出ると、腹の虫が鳴いた。


「・・・・・」


こんな時でも身体は正直だなと苦笑し、時計を見る。


「げっ」


呼ばれた時間まで後10分。“非常食”を掻き込みながら急いで身支度を済ませ、は司令室へと駆けた。



















バンッと司令室のドアを開けるのと、室長コムイ・リーの悲鳴が上がるのが同時だった。えーと・・・と状況が飲みこめずにいると、コムイの妹のリナリーが、「大丈夫だから入って」と促してくれる。飛び込みをしておきながら今更だが、「失礼しまーう」と声を掛けては彼らの所に歩み寄った。そこでふと、見知らぬ顔を見つけて首を傾げる。


「彼はアレン・ウォーカーくん。昨日入団した新しいエクソシストだよ」


コムイから紹介され、へー、と声を漏らす。


「初めまして。私はがファーストネームね。これからよろしく、アレン」

「はい、よろしくお願いします」


笑顔で握手を交わすと、近くから「ふん」と鼻笑いが聞こえた。こちらは馴染みの神田だが、この様子ではもしかしたら、二日目にしてこの二人はすでに仲が悪いのかもしれない。もっとも、神田と仲良くできる人物なんてそうそういないのだが。


「コムイさん、もしかしてこの三人で任務・・・?」

「ぴんぽーん。さすがちゃん、察しがいいね」


はい、と資料を渡されると、隣からは「ゲ」の声が二つ。何があったかは知らないが、険悪な二人の仲介役にされてしまったようだ。不安はぬぐえないが、コムイはお構いなしで話を進めていく。南イタリアで発見されたイノセンスがアクマに奪われそうになっているらしい。早急に敵を破壊し、イノセンスを保護する事が今回の任務である。


「帰ってきてすぐで悪いけど頼むよ。神田くん、ちゃん」

「いえいえ、お仕事ですから」

「・・・・・」


正直疲れは抜けきっていないが、アクマを破壊できるのはエクソシストだけで、そのエクソシストの数は少ないのだから仕方がない。教団の出入り口である地下水路まで、コムイに見送られる。



「そうそう、ちゃん」


ボートに乗り込む直前にコムイに呼ばれ、は振り返った。


「リーブンが来てたよ。さっきまで書類の海に埋もれてたみたいだけど」

「気づかなかった・・・しろいから紙と同化してたのか」


ぴょこっとコムイの帽子の中から、白銀のフォルムを持ったゴーレムが飛び出して来て、の頭の上にちょこんと乗っかった。


「あれ?普通のゴーレムって黒いんですよね?」

「この子は特別製なんだよ。クロス元帥作で」


ピシッとアレンが固まった。こっそりコムイに、アレンがクロスの弟子でいろいろ大変な目にあって来たらしいことを耳打ちされて納得する。クロスは唯我独尊代表のようなものだ。がボートに乗り込むと、今回同行する探索部隊のトマが漕ぎ始めた。


「行ってらっしゃい」

「「行ってきます」」


コムイに見送られ、本部(ホーム)を出発する。帰ってきて「おかえり」をきき、「ただいま」を言う為に。



















現在、民家の屋根の上を跳び渡り中。リーブンと、アレンのゴーレム、ティムキャンピーも小さい体で必死について来ている。


「ちょっとひとつわからないことがあるんですけど・・・」

「「それより今は汽車(だ)!!」」


汽車がトンネルから出てきたのを見計らって四人は同時に跳躍し、汽車の上になんとか着地した。


「飛び乗り乗車・・・」

「いつものことだからすぐ慣れるよ」


汽車の屋根から中に入る。そこは上級車両だったが、黒の教団の名で強制的に一室借りた。その部屋にエクソシスト三人が入り、トマは外で待機する。席に着くと、「で」とアレンが切り出した。


「さっきの質問なんですけど、なんでこの奇怪伝説とイノセンスが関係あるんですか?」

「・・・おい「寝る」てめ・・・!」


めんどくさがった神田がに説明を押し付けようとしたが、は彼の肩に寄りかかって目を閉じてしまった。夢のせいで寝ざめが悪かったこともあり、あっという間にの意識は沈んだ。神田はその早さに溜息と舌打ちをついた後、アレンにイノセンスと気怪現象についての説明を始めたのだった。














「神田とってどういう関係なんですか?」

「・・・あ?」


しばらくして出された突拍子もない問いに、神田の眉間に皺が寄る。


「いや、だって、こんなに安心した顔で眠ってるから」


アレンは軽くの顔を覗きこんで小さく笑った。警戒心の欠片も残さずぐっすり眠っている。


「・・・同門で付き合いが長いだけだ」

「ふーん・・・ホントにそれだけですか?」

「・・・知るか」


神田はそれ以上何も答えなくて、やがてアレンも問う事を止めた。話のネタの当人は、しばらくの間熟睡していた。




















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