気になる人物






















いつの間にか、ふと目で追うようになった。



















1年の冬、3年生の先輩が春高出場をかけた都大会で予選敗退となり、引退した。これからは2年生、1年生のチームとなっていく。今までならインターハイが終われば新チームで始動していたのだが、2011年に開催時期がはやめられて春高に3年生も出られるようになったため、2月のこの時期なのだ。正直、は遅いと思っていた。秋に新人戦もあるのに、本当の引き継ぎが2月だなんて。もちろん3年生が出るかは学校によっても異なるが、今年の青道高校は3年生フル出場だったのだ。それだけ下級生は実戦経験が減る。自分達の3年次にも同じようになるとはいえ、いささか納得いかないルール変更だったと、自身は密かに思っていた。
新チームでレギュラーではないにしてもユニフォームをもらえたは、一層努力しなければと自主練をかかさなかった。しかし夜に体育館でボールを使えば、バウンドの音で近所迷惑になってしまう。夕方を過ぎるとは走り込みを行うようになっていた。学校周辺は徐々に電気が消えてしまうため、顧問には野球場方面に行けと言われていた。野球場は少し離れたところに二面あり、すぐ近くには野球をするために青道高校に入った℃メ達の青心寮がある。その近くなら電灯も遅くまでついているから比較的安心できるとのことだった。野球場方面のほうが家に近いには正直ありがたかった。野球部顧問、片岡にも許可をとり、荷物を適当な場所に置かせてもらって走り出す。盗難は無い、はず、だ。ぐるりとグラウンド周りを走るだけでも結構距離がある。何周か走って青心寮の前で一息つくと、門付近に人影が見えた。いつも同中出身の結城哲也がバットを振っているのは知っている。帰ってからも何百と振っていることも。他にも同級生や上級生がよくそこで素振りをしていた。だがいまそこにいるのはただひとりだけで、豪快な素振りの音がきこえてきている。我武者羅に、ただ何度も何度も。冬だが動かして暑くなった身体からは同様汗が滴っていた。必死に食らいつくように、前に突き進むように、まるで獲物を狙っているかのように振り続けるその姿から、しばらくの間目が離せなかった。



















時は少し過ぎ、は2年に進級した。また同じクラスの人もいれば、離れた人もいる。そこそこ話をしていた人たちは大体別のクラスにわかれてしまったようだ。はぁと小さくため息をつき、は机に肘をついた。クラス名簿を眺めて、どんなメンバーになったのかを確認する。やはり大半が初めましてで、人見知りなは幸先不安になった。もう一度上から、とあ行に戻ってすぐのところで、はぴたりと目を止めた。


伊佐敷純


それはあの冬の日、がつい目を留めた人物だった。野球部所属の、ガラが悪くて、だが面倒見がいいらしい、兄貴タイプの同級生。ちら、と彼を探してみれば、数名の男子と何やら盛り上がっていた。その中には結城の姿もあって、ちょっと意外、とは思った。結城は口数の多いタイプではないからである。去年は違うクラスで一年間あまり関わっていなかったから、この一年で少し変わった可能性もありえなくはないが。ふとその結城と目が合ってしまい、はしまったと固まる。彼は話していたメンバーに一言断っての方に寄ってきた。


「久しぶりだな、。結局離れたのは去年だけだったか」

「久しぶり、結城。そうだね、中学三年間一緒の縁は伊達じゃないってことかな?」


はは、と笑えば結城も小さく笑みを浮かべた。なんかこの一年で一気に男らしくなった気がする。毎日毎日厳しい練習をこなして自主練もして、色々なものを乗り越えてきたのだから当然か。


「哲」

「あぁ、すまんな、純」


いつの間にか向こうは解散したらしく、伊佐敷が結城の元に来た。自然との目が伊佐敷に向く。また、伊佐敷もを見た。


「・・・哲が女子と仲いいとはな」

とは中学三年間同じクラスで、家も近いんでな」

「腐れ縁ってか?」

「そんなものだ」


はー、と伊佐敷が声をもらす。なんて声をかければいいのかわからず、は半ば固まっていた。


「・・・んだよ?」

「えっ、い、いや、別に、なにもっ」


ただ見ていると視線が気になったらしく、伊佐敷が怪訝そうにに声をかける。はついどもってしまいながら目線を外した。これは悪い印象しか与えないのではと不安になっていたら、意外にも結城がフォローを入れてくれた。


は人見知りなんだ。入学当初も忘れ物を俺のところまでわざわざ借りに来ていたしな」

「それ友達少ないみたいな言い方・・・事実少ないけど」


自分で言っておきながら少々情けない。はは、と乾き笑いを漏らすと、伊佐敷は「ふーん」とまだを見ている。


「このクラスには親しいやついねぇのか」

「うん・・・」

「ならま、俺が仲良くしてやってもいいぜ?」

「え?」


伊佐敷の言葉に思わず目をぱちくりさせて彼を見る。伊佐敷はまた眉を動かして「んだよ、俺じゃ不満か?」と言った。


「そ、そんなことないっ。よ、よろしくお願いします」

「おう」


小さく頭を下げると、伊佐敷が豪快に笑った。見た目はヒゲにしかめっ面にガラの悪い態度でこわい印象があるが、なんとなく聞いていた通り、面倒見がよくて根もいい人間のようだ。幸先不安であったが、結城もいるし、伊佐敷とも仲良くなれそうで、は少し、安心したのであった。





















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