はじまりの緋色




















ミステリートレインの一件から数日。バイクを走らせていたは、その道路に異質さを見てバイクを停めた。

(パトカー?何かあったのかな・・・)

は顔をのぞかせ、そこに知った顔があってぎょっとした。

「キャメル?」

さん?なぜここに?」

「私は通りすがりで・・・」

そうこうしていると、ジョディとコナンも現れた。どうやらここの階段から転倒した渋谷夏子の友人がジョディで、転倒前にキャメルの電話から彼女に着信があったらしい。それで呼び出されたキャメルだったが、その電話をしたのは、彼から電話を借りたジョディだった。渋谷夏子は学校の先生で、彼女の持ち物には採点済みの答案用紙があったらしい。それをきいてコナンは、渋谷夏子が襲われたのはここではないと推理した。答案用紙を持ち帰るのは個人情報流出のおそれがあるから禁止されていると。こっそり持って帰って採点する先生もいるらしいが、全部採点してあったのなら不自然だと。さらに、渋谷夏子は人と会う約束をしていたという。現場はおそらく杯戸小学校の職員室。通話履歴から会う予定だった人物の割り出しと、現場検証のため、彼らは杯戸小学校へ向かった。



















渋谷夏子の机からルミノール反応が現れ、犯行現場が職員室であることが確定した。残っていた教師と、被害者と会う予定があった2人に話をきく。女性は8時すぎに10分ほど、男性は9時前に学校に来たが、会えなかったという。彼は跡をつけて被害者に怒鳴りつけたいことがあったが、彼女に雇われた探偵に返り討ちにあったのだとか。

「仕方ありませんよ・・・彼女にストーカー被害の依頼を受けていたんですから・・・」

「!」

そこに現れた人物を目にして、らやコナンの顔色が変わる。安室透、またの名を、バーボン。黒の組織の幹部クラス。どうやら彼も、被害者の通話履歴に残っていたから呼ばれたようだ。

(・・・安室くん)

引っ掛かりはある、が、警戒しないわけにもいかない。悟られないように。ちら、とジョディ達とアイコンタクトをかわした。

「そちらの2人は・・・英語の先生ですか?」

安室には、キャメルのかげに隠れて十華は見えていないらしい。ジョディとキャメルを見てきいた。

「あ、いえ、こちらはFBIの方々で・・・わけあって捜査協力を」

ピクリ、と安室が反応した、ように、には見えた。

「ホォー・・・FBIですか・・・」

それはまるで、“FBI”という存在を、嫌悪しているかのような目だった。それから安室は不意に視線を外し、軽く目を瞠り、細めた。視線の先にいたのはだった。に気づいた安室は何か言うかと思ったが、そのまま顔を上げて話を戻した。

「FBI・・・アメリカ合衆国連邦捜査局ってヤツですね・・・よく映画でお見かけしますよ!手柄欲しさに事件現場に出ばって来て・・・ドヤ顔で捜査を引っ掻き回し地元警察に煙たがられて、視聴者をイラつかせる捜査官・・・」

「なに!?」

安室の言い方に、キャメルが声を上げた。安室から目を離さないまま、キャメル、とがいさめる。

「あ、別にあなた方の事を言ってるわけじゃないですよ!僕が観たのがたまたま・・・」

悪びれない様子で言う安室に、キャメルは怒りがおさまらない。そんなキャメルを落ち着かせるように、ジョディが小声でさとした。

「安室くん、あまり言わないでやって。彼、こう見えても気にするほうでね・・・」

「それはそれは・・・FBIにもそんな人がいるんですね・・・」

何を考えているのかわからない彼。だがもう少しで確信がもてそうなのだ。事件の事を話し始めた安室を、はただ見つめていた。


















その後も安室はキャメルとジョディを煽りつつ話した。体育教師と5年生の息子を持つ女性と、1年生の娘を持つ男性。被害者をストーカーしていたのは、体育教師だったようだ。本人は守っているつもりの、無意識のものではあったが。女性は短時間で、渋谷夏子はテストの採点中だったという。その後の男性も、とくにおかしなことは言っていないように思えた。問題の答案用紙は現在鑑識が調べているところで写真のみだが、それらを見る。

(これって・・・)

ぱっと目についた違和感。なるほど、とは思い、容疑者候補の3人のほうをちらと見た。

「本当に、日本じゃ花丸なのね」

「うん?」

不意にジョディがこぼした言葉に首を傾げて、あぁ、と声をもらした。

「アメリカでは“EXcelent”だもんね。でもジョディ、問題はそこじゃ、」

「それだけか?」

の言葉をさえぎるように、挑発ともとれる声。

「それだけなのか?FBI・・・」

安室がジョディとキャメルに問う。この写真から読み取れるのはそれだけなのか、と。だがジョディもキャメルもこの“違和感”には気づいていないようだった。

「ぷっ、ハッハッハッハ!!やはり読み取れたのは僕達だけだったようだよ!」

「僕達?」

「そうだろ?江戸川コナンくん・・・そして、さん」

「え?」

「・・・」

コナンは「何の事?」ととぼけたが、安室はコナンの行動を見ており、誤魔化せなかった。犯人は、だいたいわかった。

「しかし、ようやく謎がとけましたよ・・・ずっと疑問だったんです。なぜ彼女は探偵の僕に・・・ストーカー調査の依頼をしてきたのか・・・FBIのご友人がいるっていうのに・・・」

「ちょっとそれどういう意味!?私が頼りなかったって言いたいわけ!?」

「た、頼みづらかったんじゃないですか?我々は休暇をとって観光で来日しているわけですし・・・」

煽ることをやめない安室と、それに食いつくジョディ、なんとか誤魔化そうとするキャメル。その様をはただ見ていた。

(本当に、何を考えてるの?確かに怒らせればボロが出る可能性は出てくるけど・・・)

この時点でジョディやキャメルから盗れる情報なんてないだろうに。

「観光ですか・・・ビザがないんなら、そろそろ滞在日数が限界に来てるんじゃないですか?満喫したのなら・・・とっとと出て行ってくれませんかねぇ・・・僕の日本から・・・」

“僕の日本から”

は、確信した。やはり、彼は。目を瞠って安室を見ると、彼はに向けてわずかに笑みを向けた気がした。

「ねぇ、ちょっと、ゼロ・・・いや、安室の兄ちゃん・・・」

不意にコナンが安室を呼ぶ。少し離れたところで、耳打ちし始めた。

(ゼロ・・・?)

あだ名だろうか。しかし安室の名前は“透”。いや、これが偽名なのだとしたら関係のないものがあだ名でもおかしくはない。“ゼロ”があだ名となる名前は限られるから、それはまた考える事にしよう。は先ほど確信したことを思い返していた。FBIを嫌うような態度、“僕の日本から”という発言、持ち前の洞察力、ベルツリー急行で哀を即座に殺そうとしなかった行動。

(存在しない組織であれ)

安室とコナンの話が終わったようだ。コナンはもしかしたら、と同じことを考えているのかもしれない。戸惑いに変わった目で、安室を見ていた。

(日本の安全と秩序を守る為に存在する組織・・・公安警察)

その俗称を、“ゼロ”という。コナンに詳しく話をきけばまた何かわかるかもしれない。彼が本当に公安の人間であるのならば、が感じた“自分と同じもの”にも納得がいく。なんにせよ、確信があっても確実にそれと証明できなければ逆手にとられるだけだ。

「降参だよ、安室くん・・・教えてくれんか?」

どうにか考えようとしていた目暮警部が安室に言う。安室は答えを導くように目暮に話していた。ピースとなるのは、チェックと丸、いびつな丸、花丸の書き方。それはアメリカと日本での採点の仕方の違い、血痕を隠そうとした丸の形、利き手の違いによる花丸の渦の方向の違いを意味していた。これで犯人は左利きである神立であることが判明した。これで事件は解決だが、それですんなり終わりはしなかった。渋谷夏子の容態が急変したとの連絡が入ったのだ。ジョディは顔色をかえ、コナンとキャメルを車に乗せて病院へ急いだ。もすぐさまバイクに乗って追う。だがその後に続く安室の車に疑問を覚えた。確かに彼女は彼の依頼人だ。筋は通っているのだが。本当に彼の正体が確実なものになるまでは、警戒を解く事はできない。途中の信号の兼ね合いで、は到着が遅れた。病院に着いた時には安室が立ち去ろうとしたところで、はヘルメットをとりながら目を細めた。に気づいた安室もまた、目を細めて彼女を見た。

「・・・知ってたのね、私がFBIだって」

「えぇ・・・まぁ、ちょっとしたときに」

ここで初対面だったと思われるジョディやキャメルのことならともかく、は何度も会っている相手。しかも安室のアルバイト先で。その相手が実はFBIだったなら、普通はもっと驚くはずだ。

「ねぇ、コナンくんとなんの内緒話をしていたの?」

「別に・・・僕のあだ名のことですよ」

「ゼロ?」

「・・・えぇ」

それが、なにか?安室の顔はそう言っていた。これ以上ききだすのは、無理か。

「なんでもないわ、ちょっときいてみただけ・・・」

「そうですか・・・では」

「安室くん」

「・・・?」

車に乗り込もうとした安室を、は呼び止めた。なぜ呼び止めたのか、本人にも正直よくわかったいなかった。

「何か?」

「あ・・・いや・・・」

「・・・」

「・・・ごめん、なんでもない」

「・・・」

その表情から安室は何を読み取ったのか、に歩み寄って耳打ちした。

「明日の行動には、お気をつけて」

「・・・!?」

なにを、そう口にする前に安室は車に乗って行ってしまった。今の言葉は何を意味するのか。はその後、すぐにそれを把握する事になる。楠田陸道が車の中で拳銃自殺したことを、やつらに知られてしまったことを、きいて。


















―――――
推理場面になるとはしょって地文にしかならないのなんとかしたい・・・


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