読めない彼




















初来店から、彼女は度々ポアロを訪れるようになった。


















毎日来ているのではないだろうかという頻度の彼女、が注文するのはいつもコーヒーのみだった。アイスかホットかは日によるが、いつの時間に来てもコーヒーしか頼まない。昼食時になってもコーヒーのみだった。梓にきけば、安室が休みの日もやはりコーヒーのみで、滞在時間は安室がいる日よりも短いのだという。本当に“安室のコーヒー”を飲みに来ているということがわかるのだが、安室はそんなが少々心配になった。

「・・・あの」

「ん?」

突如斜め上から声を掛けられて、は読んでいた新聞から顔を上げて安室を見た。

「すみません、余計なお世話かとは思うんですけど、いつもコーヒーだけですが、お食事は・・・?」

「んー、大丈夫、です。普段もそんなに食べないし」

「けど、もたないでしょう?」

「うーん・・・」

は少々困った様な表情を見せた。これは本当に、食べなくても大丈夫なのかもしれない。だが安室は自分からは退かず、の答えを待った。

「それじゃ、せっかくだからいただこうかな。あんまり量無くていいんで、おすすめで」

「はい!かしこまりました!」

にこ、笑って背を向ける安室をは見送った。世話焼きなのかなと思ったが、心配してくれたのは、純粋に嬉しかった。

(もうみんな慣れちゃったものねぇ)

頭に浮かぶのはFBIの近い面々。それだけしか食べないのか、と言われることがあるが、頷くとそれ以上何も言われないからである。それがもう定着してしまったのだ。はちらとカウンターの方を、自分の食事を用意してくれている安室を見た。

(思い過ごしだったかな?)

彼からは何か“自分と同じもの”を感じた気がしたのだが。

(まぁ、害がないなら答えを急ぐ必要もないか)

思ってコーヒーを一口。「うん、おいしい」と頷くと、「ありがとうございます」と声が掛かって、安室がテーブルに皿を置いた。

「量は少なくとのことだったので、サンドイッチにしました」

「ありがとう。わがまま言ってごめんなさいね」

「いえいえ。それでは」

一礼して行く安室を一瞥し、は控えめに盛られたサンドイッチを手にした。口に運んで、ぱち、と目を瞬かせる。

(うわ、美味しい・・・)

コーヒーといいこのサンドイッチといい、安室は何者なのだろうか。こんなに美味しいサンドイッチを食べたのは初めてかもしれない。専門家でもないのに、こんなに腕がいいとは。ちら、と安室を見れば、今の様子を見られていたのか、にこりと笑われた。う、とは少し恥ずかしくなり、目を逸らす。

(うー・・・このまま餌付けされそうでこわい)

彼の本性がまだ見抜けないから、警戒すべきだというのに。やつらと関係があるにしても、ないにしても、只者でないことは確かなのだから。できればせめて、やつらとは関係ない人でいてほしいと、は無意識に心のどこかで思っていた。


















だが後日、は盗聴した先で彼のの異名をきくことになる。来日しているFBIが追う組織が使う方式、酒の名前のコードネーム・・・『バーボン』と。





















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