ちいさな彼女



















怪しげな薬で身体がちぢんでしまった親友、工藤新一の実家前に、はたたずんでいた。鞄の中を漁り、それが無い事を再び確認し、肩を落とす。

(やっぱり鍵忘れてるな・・・仕方ない、博士に借りるか)

せっかくゆっくり本を読みに来たのだ。このままとんぼ返りはごめんこうむりたい。は隣の阿笠博士の家のインターホンを鳴らした。

「・・・?」

ピンポーン、と2、3度押してみても出てくる様子が無い。博士の愛車であるビートルはある。近所に出掛けているのだろうか。ふと思い立ってドアノブに手をかけて見れば、動いた。

「・・・・・」

不用心な、と思いながら、は家の中へ足を踏み入れた。途端、話し声が耳に入る。奥のソファには見慣れた2人がいた。

「なんだ、いるじゃないか。インターホン慣らしても出てこないのに鍵開いてるからどうしたのかと思った、ぞ・・・?」

「おぉくん。すまんすまん、つい話し込んでおってのう」

博士の言葉は意識半分できいていた。の視線は、コナンの正面に座っている、コナンと同じ年頃の、赤みがかった茶髪の少女に向けられていた。

「・・・孫、ではないんだよな」

「こっ、この子はじゃな、灰原哀くんといって、わしの親戚の子で・・・」

「そういう下手な嘘は俺に通じないってわかってんだろ」

「そうだな」

あっさりと同意したのは、コナンだった。コナンはそれ以上は何も言わず、じっとを見る。もコナンを見、そしてずっと黙ったままの少女に顔を向けた。警戒、というよりは、壁をつくっているような目。は彼女の前にしゃがみこみ、目線を合わせた。

「俺は。あいつのダチだ。きみは?」

「・・・今博士が言ったのをきいてなかったの?」

初めてきいた彼女の声。声色も言葉も、小学校低学年生のものとは思えないような。

「きみの口からききたいんだよ。きみの、本当の名前をさ」

「!!」

少女の目が見開かれた。そして、その驚愕の表情のままコナンを見る。彼は肩をすくめてみせた。

「そいつは“俺”の事も知ってるぜ。あっさり見抜かれちまった」

「・・・・・」

一気に彼女の警戒度は上がっていたが、コナンの発言により弱まる。

「新一は親友だからな。ちょっと考えりゃわかる」

「・・・あなたも探偵気取りの首を突っ込みたがるタチなの?」

「いいや?俺のは推理じゃないからな」

後ろで「嘘つけ」ときこえたが、は無視した。

「きみの、名前は?」

「・・・宮野、志保」

「志保さんか」

が頭を撫でると、哀はびくっと驚き、だが抵抗はしなかった。

「あん?なんで“さん”なんだよ?」

それをくずしたのはコナンで、怪訝そうにに声をかけた。

「なんか、年上っぽいなと思ってさ」

「そうかぁ?そうなのか?」

「・・・まぁ、間違ってはいないわね」

哀の答えに、ほらなとが言う。そして、けど、と続けた。

「哀さんは、なんでちぢんだんだ?」

「・・・外でその呼び方しないでよ?」

「わかってるって、外ではちゃんと哀ちゃんって呼ぶからさ」

「・・・」

それにもなんだか複雑そうな顔をしたが、哀は振り払って郁大を見た。

「あとにひけなくなるわよ」

「新一がちぢんだ原因知ってる時点で、もう巻き込まれてるし、巻き込まれにいってるさ」

「・・・・」

哀は一度目を閉じ、開いて話し始めた。

「あの薬は、私がつくったの」

「・・・え?」

さすがのも目を瞬かせる。歳は自分達より上と推測したが、まさか作った本人だとは。

「あの組織に、私もいたの。裏切って、このザマだけど」

「そ・・・それはさすがに驚いたな・・・けど、そうか」

「それ、だけ?」

今度は哀が目を瞬かせる番だった。あっさり受け入れた彼の気が知れない。

「もう組織にいたくないから、抜け出してきたんだろ?毒薬なんてもんを飲んでさ」

「どうして私が自分で飲んだと思うの?」

「さぁな、“勘”だ」

「勘って・・・」

哀が動揺を隠せずにいると、コナンにぽんと肩をたたかれた。こういうやつだ、諦めろ。苦笑しながら首を振るコナンの表情は、そう語っていた。

「ま、よろしくな、哀さん」

「・・・よろしく」

灰原哀。元黒の組織の幹部。名はシェリー。だがそんな事実はもろともせず、は受け入れた。こうしてまた彼は、闇に一歩、巻き込まれに行く。



















―――――

コナンはこの時点では哀ちゃんの本名知らないけど、まぁ←




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