「なぁ、なんで俺まで呼ばれたんだ?」
問い掛けると、園子はジュースを飲みながらきょとんと目を瞬かせ、スパッと言い放った。
「新一くんの代わり」
「あぁ…」
妙に納得してしまって、は自分の正面に座る園子の隣と、自分の隣をチラ見した。園子の隣には彼女の彼氏である京極真、自分の隣には、親友の工藤新一の幼馴染である毛利蘭が座っている。自分が工藤新一なら、Wデートの形になっただろう。だが、なぜわざわざ自分を呼んだのか。面子が面子なのだから、三人でも良くないか。そんな訴えの表情が読み取れたのか、園子はきかれたわけでもなく「だって」と言葉を発した。
「くんなら蘭と一緒にいさせても安心だし、なんなら新一くんに自慢写メでも送ってやろうかと」
「なる、ほど…?」
後者はわかるが前者はどういう意味でとらえたらいいのかと思いながら言葉を返す。
「ごめんねくん。付き合わせちゃって」
「いや、毛利が謝る事じゃないよ。園子に引きずられたようなもんだしな」
それならいいんだけど、と蘭がほっと息をつく。その時カシャと音がして、写真を撮られたのだということに気づいた。
「園子…」
「いいじゃない!ほら、これ新一くんに送っといてね!」
「俺がかよ」
ピロンと受信の音がしてスマホに写真が届く。無駄に良い角度で距離が近いように見える。今送ると面倒そうだから後で送ろうと、そのままスマホをおさめた。すると、それが間合いだと感じたのか、今まで黙っていた京極が「あの」と口を開いた。
「突然こんなことをきいて恐縮なんですが…くんは、園子さんとどのようなご関係なんでしょうか?」
一瞬、はきょとんと目を瞬かせた。だがすぐにジト目を園子へと向ける。
「お前…説明せずに俺を連れてきたのか」
「かるーくはしたわよ?かーるーくは」
それは本当の意味で軽くしたんだろうなとはため息をついた。そしてひとつ答えを間違えれば牽制がとんでくるのではないだろうかと思える京極の視線に答えた。
「俺と園子はなんていうか、ただの幼馴染…は少し違う華。腐れ縁、ってやつですよ」
「腐れ縁…ですか?」
腐れ縁、という言葉に京極が軽く目を瞬かせる。
「そう、腐れ縁です。俺の親が鈴木財閥と縁が深くて、俺も小さい時から鈴木財閥主催のパーティなんかによく出席してたんで、そこで会う事が多かったんですよ。タメってのもありますしね」
そう説明すると、京極は「なるほど…」と少し思案した。次は何が来るのだろうかと内心身構えながら待っていると、思っていた所とは違う場所から声が上がった。
「心配しなくても大丈夫よ、真さん!くんはあたしにこれっぽっちもなびいちゃくれないんだから」
「その言い方だろ俺になびいてほしいようにきこえるからやめろ、誤解を生む」
はぁ、とまたため息をついてが首を振る。園子は悪びれた様子無く「冗談よ、じょーだん」と笑った。冗談が通じる相手かどうか見てから言ってほしい。
「けどまぁ、確かに園子相手にその気はないんで、安心してください。あぁ、魅力が無いとは言ってないんで、そこも誤解無く」
園子に魅力が無いという意味にとられないよう補足をつけて説明する。
「そもそもくんってあんま女子に興味無いわよね。初恋とかどうだったのよ?」
「……」
さすがにそんな話が出るとは思わず、かたまる。「なによ、いくら興味ないといっても初恋がまだなんて言わないでしょ?」という言葉をききながら、はゆるゆるとテーブルに肘をついてそっぽを向いた。そして数秒口をつぐむ。三人の視線がに集まり、やがて居たたまれなくなって口を開いた。
「……………お前だよ」
ちら、と向ける先には、きょとんとする腐れ縁の顔。へ、と小さくこぼした彼女は、次の瞬間自分を指差して大声を上げた。
「あたし!?」
「声がでけぇ」
何事かとこちらに向けられた周りの視線に、すみませんなんでもないですと笑いかけながら園子は座り直した。そしてテーブル越しにずいとへ顔を寄せる。
「どういうことよ、全然知らなかったんですけど?」
「そりゃ言ってないし……一瞬でも初恋は初恋だろ」
「…一瞬?」
近い、と身体を起こして避けたに、園子が怪訝そうな顔を向ける。京極はかたまっていたところから我に返ったあと何か言いたそうに、蘭は少々ハラハラしながら見守っていた。
「五歳くさいかな。初めて鈴木財閥主催のパーティに出席した時、父さん達とはぐれて廊下をうろうろしてたら、部屋から女の子が出てきたんだ。可愛いドレスを着て、大人しそうで。ちょっと不機嫌そうだったけど、それも可愛く見えて。けど次の瞬間、その女の子が癇癪を起してさ…」
「…一気に冷めたと」
「そういうことだ」
うん、と頷くと、言われた本人は複雑そうな顔でため息をついた。腐れ縁の昔馴染みの初恋相手がなんと自分だったかと思えば、一瞬にして終わったという。複雑以外に言葉が見つからない。そんな園子の様子とは裏腹に、京極は少し安堵したような顔をしていた。それを読みとって、はもうひとつ言葉を重ねた。
「と、いうわけなんで、安心してください。それに、今は他に好きな相手がいますし」
「は!?なにそれきいてない!」
京極に言った言葉に即座に食いついてきた園子には先程同様「言ってないしな」と返す。
「誰よ!?あたしの知ってる子?」
「知ってる…と言えば知ってるかもな。言うつもりはないが」
「なんでよ〜〜〜!」
ずるいとでも言いたげな顔で彼を睨む園子、気にせずそっぽを向く。二人の様子を見て、京極は小さく笑みを浮かべた。
「京極さん?」
「いえ…お二人は確かに、男女の仲というより、“腐れ縁”というのが合っているんだなと思いまして」
「そうですね…私はくんとは小学校三年生からの付き合いですけど、最初からこんな感じだったと思います」
京極と蘭が言葉を交わし、また二人を見る。男女を越えた不思議な縁と絆が、と園子の間にあるのを感じていた。