工藤新一が姿を消して、早一週間。幼馴染である毛利蘭は、数日前に電話で、「厄介な事件に巻き込まれているからしばらく帰れない」と聞いたという。あいつらしいといえばあいつらしいが、ここまで休むのは珍しい。本当に厄介な事件なら、さすがに心配になってくる。考えながら歩いていたは、ふと足を止めて顔を上げ、はは、と乾き笑いをもらした。すぐそこには、今考えていた親友、工藤新一の家。新一の両親は現在海外におり、今は新一が1人でこの屋敷に住んでいた。そして今、この屋敷の中に、人はいない。はしばし工藤邸を見つめた後、隣の阿笠博士の家に顔を向けた。
(阿笠博士なら何か知ってるかな・・・)
蘭には心配かけたくないからと話さなくても、博士になら話しているかもしれない。の足は自然の阿笠博士の家に向かっていた。
阿笠邸に一人で来たのは、実は数えるほどしかない。は工藤邸にある大量の本を読ませてもらうために合鍵を持たせてもらっているのだが、その合鍵を忘れた時くらいだろう。呼び鈴を鳴らすと、しばらくしてガチャとドアを開ける音がした。声をかけようとして、正面に誰もいないことに、は目を瞬かせた。
「・・・?」
「ゲ」
「ゲ?」
なぜかそんな変な声が下の方から。視線を落とせば、眼鏡の少年が、そこにいた。
「子ども・・・?博士に孫なんて・・・」
「あっ、あっ、は、博士〜!誰か来たよ〜!」
「あっ」
言うなり少年はドアを開けたまま中へ駆けて行く。少しすると、入れ替わりに阿笠博士が出てきた。
「おお、くんじゃないか。どうしたんじゃ?」
「・・・新一のことで、ききたいことがあってさ」
「し、新一の事でか」
なぜそこで、どもった。は先ほどの少年の態度と博士の挙動不審な様子を見て、ひとつの仮定をたてた。
「まさか、な」
「なにがじゃ?郁大くん」
「失礼するぞ、博士」
「あっ、おい!」
一言かけ、は中へ入った。そして先程の少年を探す。少年はといえば、ソファのそばからじっとこちらの様子を伺っていた。そのままは少年に近づいて行き、しゃがみこんで彼と視線を合わせる。
「・・・」
「なっ・・・なに?お兄ちゃん」
「・・・いや、だが・・・」
「・・・」
はじっと少年を見つめ、観察し、そしてすっとその、眼鏡に手をかけた。あっ、と少年が声を上げたあとには、彼の眼鏡はの手におさまっていた。
「・・・・・」
「・・・・・」
と少年が見つめ合う。否、少年はと目を合わせないように視線をそらしていた。
「・・・写真でしか見たことねーけど、そっくりだなー」
「だ・・・誰と?」
「工藤新一」
「!」
びくっと少年の肩が震えた。決まりだな、とが立ち上がる。
「ま、待つんじゃくん。この子はわしの親戚の子で、江戸川コナンといっての・・・」
「江戸川乱歩にコナン・ドイルか」
「な」
「確かそんな並びしてたもんな、本棚」
さすがは通っているだけのことはある。少年―コナンは視線をそらしたまま、冷や汗をかきそうな表情だった。
「新一が行方知れずになって一週間。そしたら隣の家に新一のガキの頃と瓜二つの子ども。偶然にしちゃ、できすぎてるよな?」
「・・・・・」
「なぁ、ここまでバレてんのに、だんまり通すつもりか?新一」
ゴクリ、と鳴ったのは、博士の喉だ。コナンはしばし黙って虚を見つめていたが、やがてふっとい笑みをこぼした。
「やっぱオメーの推理も油断ならねぇなぁ」
「俺のは推理じゃねーっての」
「立派に推理だろうが」
観念した表情で、コナンが顔を上げる。
「なんでそんなことになってんのか、話してくれるよな?」
「・・・・・あぁ」
そしてコナンは語り始めた。一週間前に、トロピカルランドで見たこと。殺す目的で毒薬を飲まされ、身体が縮んでしまったこと。いまは「江戸川コナン」と名乗り、蘭の家に世話になっていることを。
「・・・とまぁ、突拍子もねぇ話だけど、これが事実だ」
「・・・そうか」
ふーっとが大きく息を吐く。本当に、突拍子もない話だ。薬で身体が縮んでしまうなんて。
「ま、これで事情はわかったし、俺も気をつけることにするさ。・・・何かあったら、言えよ?新一」
「バーロォ、お前を巻き込むわけには・・・」
「バーロォはお前だ、馬鹿。ここまで話といて巻き込みたくないなんてさ」
「・・・」
はにっと笑って見せた。
「親友のためだ、喜んで巻き込まれてやるさ」
「・・・サンキュ」
は内心ほっとしていた。行方知れずになっていた親友が、実は身近にいたからだ。状況は決していいものではないが、それでも死んだわけでも、知らないところで厄介な事件を抱えているわけでもない。厄介な事件に巻き込まれていることに違いはないが、それでも近くにいるのだから。