ひまわりの笑顔
















近江、小谷城。もうすっかり旅に慣れたは、10歳になっていた。
そして、今対峙しているのは、浅井久政の嫡男、猿夜叉丸。もうすぐ元服を迎えるのだという。
長期滞在ではないため、真暁はすでに仕事に出ており、部屋にはと猿夜叉丸の二人きりだ。


「・・・・・」

「・・・・・」


どちらも何を話せばいいかわからないのか、口を開こうとしない。
だが、部屋に二人きりになって小半刻が過ぎるころ、ようやくが口を開いた。


「あの、猿夜叉丸様・・・もうすぐ、元服を迎えられるそうですね。おめでとうございます」

「・・・あぁ」


ぺこりとおじぎをすると、猿夜叉丸はそれだけ返した。


「・・・えっと・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・、と言ったか」

「あ、はい」


再び沈黙が流れるかと思ったとき、今度は猿夜叉丸の方が話題を振った。


「私の事は呼び捨てで構わぬ。元服してもだ」

「・・・よろしいのですか?」

「構わぬと言っているだろう。その、敬語もだ」


猿夜叉丸はから顔を逸らしているが、その頬は少し朱に染まっている。つまり、照れているのだ。


「ありがとう!猿夜叉丸!」


それをわかってかわかっておらずか、は嬉しそうに笑った。顔をに向きなおしていた猿夜叉丸は、目を見開いた。
いつも見せる、満面の笑み。初めて見た猿夜叉丸は、まるで花のようだと思った。
太陽に似ている、大きくて、明るい花。


「?猿夜叉丸?」


見惚れて呆けている猿夜叉丸の顔をが覗き込む。


「ッ・・・!?なっ、なんでもない!!}


急に顔が近くなり、猿夜叉丸は顔を真っ赤にして後ずさった。鼓動が高鳴り、早鐘が身に響いている。
次第に落ち着いてくると、猿夜叉丸は一息ついて立ち上がった。


「少し、待っていろ」

「あ、うん」


それだけ言うと、猿夜叉丸はどこかへ行ってしまった。



















しばらくして戻って来た猿夜叉丸の手には小さな箱があった。それをに手渡す。


「これ、は?」

「・・・べ、別に私ではないからな!
父上が、せっかくだから贈り物の一つでもしろと言うから、仕方なく・・・!断じて、私が提案したのではないからな・・・!」


何も訊いていないのに言い立てる猿夜叉丸に小首を傾げた後、は蓋に手を添えた。


「開けていい?」

「・・・あぁ」


そっと開ける。中には、小さく花の装飾が施されているかんざしが入っていた。
その花は、偶然にも先ほど猿夜叉丸が思った、太陽の花だった。


「わぁ・・・これ、猿夜叉丸が選んでくれたの?」

「わっ、私は、父上が候補として出した中からこれがいいかと選んだだけで・・・」


最後の方はごにょごにょと聞き取れなくなっていったが、は気にしなかった。


「ありがとう、猿夜叉丸」


はそのかんざしを手に取り、自分の髪にそっと挿した。


「似合うかな?」

「・・・あぁ。まるで・・・向日葵のようだ・・・」


大した着物でも、綺麗な飾りをつけているわけでもない。あるのは今もらったかんざしと、その笑顔だけだ。
それでも猿夜叉丸には、が輝いて見えた。














猿夜叉丸の、淡い初恋。














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