いつかまた逢いましょう
真暁との親子が米沢城に来て、早数十日。真暁の商売は奥州でも上手くいき、安芸から持ってきた品は全て売れた。
それによって米沢城滞在の理由も無くなり、2人は安芸へ帰ることとなった。
「大変お世話になりました」
「いやいや、こちらこそ・・・世話になった」
ちら、と輝宗の目が足元の梵天丸に向く。真暁が複雑そうな表情を見せたが、梵天丸もも気づいていなかった。
「ぼん」
「・・・・・」
が呼びかけるが、梵天丸は返事どころか目を合わせようともしない。
「・・・ぼん」
一歩近づくと一歩さがる。少し間があって、は悲しそうに俯いた。
「・・・ぼん、のこと、きらいになっちゃったの?」
「・・・ッちがう!!」
大きな声に驚き、は勢いよく顔を上げた。父2人はそんな様子を黙って見守っている。
「おれは・・・!おれじゃ・・・いやだ」
「ぼん・・・」
「せっかく、ともだちになったのに。もう、あえないのか・・・?」
今度は梵天丸が俯いた。は梵天丸に近づいてその手をとった。
「だいじょうぶだよ、ぼんてんまる。また、あえるよ。いつか・・・おおきくなったら、あいにくるよ」
「・・・ほんとう、か?」
「うん!やくそくだよ!」
が笑うと、梵天丸もほんの少し笑った。
「そうだ!ちょっと、まってろ!」
何か思いついたのか、言うなり梵天丸は、己の住まいである離れの方へ駆けて行った。
少しして帰ってきた梵天丸は肩で大きく息をし、右手には何かを握っていた。
その右手をに向かって突き出す。黙ってその下に両手を差し出すと、ぽとりと何か落とされた。
「わぁ・・・」
それは、首から下げられるように加工した、小さな笛だった。
「もらって、いいの?」
こくんと大きく頷き、梵天丸が真っ直ぐを見る。
「やくそくの、しるしだ」
「やくそくの、しるし・・・」
は嬉しそうにそれを首にかけた。紐が少々長いが、気にすることは無い。
きらり、と笛が小さく光った気がした。
「どんなにかわっても、かわっていなくても、それがめじるしだからな」
「でも、、ぼんのめじるし≠烽チてない・・・」
申し訳なさそうに眉を下げると、梵天丸が首を振った。
「いいんだ。は、おおきくなってあいにきてくれれば。そうしたら、おれが、をみつけるから」
「わかった。ぜったい、ぜったいまたあいにくるから!」
真暁が、「そろそろ行くよ」との手をとる。もう一言二言輝宗と交わし、真暁は歩き出した。
自然にの足も動き出す。
も梵天丸も、もう言葉は交わさなかった。
ただただお互いの姿が見えなくなるまで見つめ合い、そして姿を見失うと、ほぼ同時に泣き出していた。
小さな二人の、大きな別れ。
そして約束は、十数年後、果たされることとなる。
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