それだけで 十分だから
















の手に引かれ、外に出られるようになったある日のこと。
と梵天丸は、小十郎をお供に城の外へ出ていた。


「決して小十郎のそばをお離れになりませぬよう。梵天丸様も、様も」


2人してしっかりと頷いた。・・・はずだった。


「・・・こじゅうろう??」


梵天丸は1人、そこにいた。




小十郎は少し目を離した間に梵天丸もよそへ意識をとられ、はぐれてしまったのだ。
の姿も無いから、小十郎と一緒にいるのだろう。


(こういうときはうごかないようにってこじゅうろうがいってたな・・・)


梵天丸はそれを思い出し、その場にあった大石に座ってじっと待つことにした。









ガサリ、と茂みが揺れる。梵天丸は反射的に立ち上がった。


「こじゅうろう・・・?」


茂みはガサリと揺れただけで、人が出てくる気配はない。人かどうかもわからないが。
梵天丸は恐る恐る茂みに近づいた。


「こじゅうろう・・・?・・・?」


茂みまであと少しのところまで来たとき、突然茂みが大きく動いた。


「!!?」


驚いた勢いで梵天丸がしりもちをつく。
茂みから出てきたのは、小十郎でもでもなく、風貌が悪く刀を手にした男だった。男が少しずつ近づいてくる。


「まさかこんなところに伊達家のゴシソクサマが1人でいるとはな。俺もついてるぜ。
お前の父親は、お前にいくら出すかなぁ?」

「や・・・く・・・くるな・・・」


必死に後ずさりするが、心に反して体はほんの気持ち程度にしか動けていない。


「まぁ、ほんの少し傷付けるくらいなら文句言われねぇよ、な!!」

「!!?」


梵天丸の左目が大きく開かれる。その瞳に映るのは、振り下ろされる刀。


「ぼん!!」


その、視界に入った小さな影。その影は梵天丸と男の間に入り、小さく朱を散らした。
そして、へたりと座り込む。


「チッ、邪魔しやがって。次こそは・・・」

「梵天丸様!様!」


男が再び刀を振り上げたとき、聞き慣れた声が駆けつけた。


「こじゅうろう!!」

「梵天丸様、ご無事で!?」

、が・・・」


小十郎はすぐさま、梵天丸の前で座り込んで俯いているに目を向ける。
部位はわからないが、朱が滴り落ちている。


「てめェ・・・」

「ひっ・・・!!」


小十郎が男に刀を向け、一応主の方にも目を向ける。どうやらの方に意識がいっているようだ。
小十郎は梵天丸の視界に入らないように男を追い込み、一閃した。
本当は連れ帰ってしかるべき処置をとるべきなのだろうが、幼い2人を連れていては難しい。さらに、1人は怪我人だ。
小十郎は一息つき、梵天丸との元に戻った。









「・・・梵天丸様」


いつもの小さな背中が、震えてさらに小さく見えた。小十郎はその小さな主に近づく。


「梵天丸様、傷の手当てをしますので、様をお離しださい」

「・・・っ」


梵天丸は俯いての着物を離そうとしない。


「おれの、せいでっ・・・、けがした・・・!!」

「・・・悔いることよりも、今は傷の手当てをすることが先決です」

「・・・っ」


だが梵天丸は首を振って譲らない。


「だい、じょうぶだよ、ぼん」

・・・!!」


額をおながら、が小さく笑う。その指の隙間からはまだ、わずかに血が流れていた。


「額を・・・様、手当てをしますので、お手を」


小くんと頷きゆっくり手を離すと、小十郎に布をあてられる。じわり、と布が朱に染まっていく。


「幸い、傷は浅いようですね」

「・・・だって。だからだいじょうぶだよ?ぼん」

「・・・・・ッ!!」


梵天丸の頭に優しく手が乗せられる。すると、その左目から大粒の涙がぽろぽろと零れ始めた。


「ごめっ・・・ごめん・・・!!、ごめん・・・!!」

「どうしてぼんがあやまるの?わたしがかってにとびだしたんだよ?」

「でもっ、おれが、きをつければ・・・」

「もういいよ、ぼん」


痛みを堪えながら、は優しく笑う。


「わらって?それだけで、いいから」

「そん、な、こと・・・!」

「梵天丸様、大切な事をまだ言っておりませぬぞ」


の頭に包帯を巻き終えた小十郎が言う。


「たいせつな、こと・・・?」

「梵天丸様は、様に助けていただいたのです」


梵天丸ももきょとんそした。そしてゆっくりと、梵天丸の顔がの方へ向く。


「ありが、どう・・・」


ぎこちない微笑みだったが、は嬉しくて笑い返した。









「この傷は、残ってしまうでしょう・・・」

「・・・そっか」

「そんなこときにしなくても、おおきくなったらおれのところにくればいい」

「!?」

「・・・いいの?」

「もちろんだ」














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