ため息が一つ(空に溶けていく雲のように)
















「梵天丸様、失礼いたします」


返事はいつも無い。だから、いつもの様に返事を待たず、襖を開けた。
そこで目にしたものは、片倉小十郎にとって信じがたい光景だった。




小十郎はあまりに驚き、動けずにいた。


「あっ、あの・・・ごめんなさい!かってにはいって・・・」


自分の小さな主の傍に座る少女の声で、はっと我に返る。


「あっ、いや・・・」


中に入って襖を閉め、ちらと梵天丸を見る。いつも下を向いてうずくまっているのに、顔を上げて、穏やかな顔で、少女を受け入れている。
小十郎は、この少女が誰なのかはわかっていた。2人に近づき、少女に視線を合わせる。


「高瀬真暁様のご息女、様とお見受けいたします。私は片倉小十郎景綱と申します。その、何故、こちらへ?」


梵天丸がむっとした顔で小十郎を睨む。こんなふうに不満を表に現わすことも珍しく、小十郎はたじろいだ。


「きのう、ひとりであそんでたらまいごになってしまって、ここにひとがいるってわかったから、なかに・・・」

「おれが、ゆるした」


実際にはが勝手に入ったのだが、小十郎は知るよしもなく、またもや驚き目を瞬かせた。


「・・・梵天丸様が宜しいのであれば、小十郎は何も言いませぬ」


言ってこぼれたのは、言葉とは反する溜息だった。


「・・・ふふくか?こじゅうろう」

「いえ、決してそのようなことは。しかし様は、真暁様からこちらには近づかぬようにと言われておられるはず。
 真暁様に知られたらと思うと、自然にため息が出てしまったようです」

「う・・・」


叱られる所を想像したのか、の眉がきゅっと下がった。


「こじゅうろう」

「しかしながら小十郎は、真暁様に告げるつもりはありませぬ」


といる事で、この小さな主の心が晴れるのならば。


「ほんと・・・?」

「もちろんですとも。小十郎に二言はございませぬ」


小十郎がはっきり言うと、は「よかったー」と笑った。それを見て、梵天丸の表情がほんの少し、和らぐ。
小十郎は真暁に隠し事をすることに心を痛め、またため息をついたが、それはどこかに行ってしまうほど、小十郎の心もまた、和らいでいた。









しかし数日後、梵天丸のイトコである時宗丸にまで見つかり、小十郎はまたため息を落とすのだった。














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( )つき 001〜050

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