雨宿りしたら 君と出会った
空は曇天。耳につくのは地を打つ雨の音。片腕には、木の実やら山菜やらが布に包まれておさまっている。奥州から甲斐へ向かう途中の山中で山小屋を見つけたは、そこで一晩過ごすことにして食糧の調達に出た。片腕に食糧がたまってきたころぽつりぽつりと雫が落ち始め、今ではどしゃ降りだ。は木陰で雨宿りしながらため息をついた。
「めんどくさ・・・」
彩輝は小屋の中に入れてあるが、野党なんかが出た時すぐ逃げられるように扉を開けて来たから、帰って来ないを心配して外に出ているかもしれない。走って戻ろうかとも考えたが、折角の食糧も、待っている彩輝も濡らしてしまう。止むのを待つのが一番だが、彩輝の事が気がかりだ。どれを優先させるべきか悩んでいると、ふと視界に影が落ちた。え、と振り向くと、そこには黒い甲冑を身につけた男が立っていた。
(気配が全くしなかった・・・)
顔は兜で大半が隠れていてよくわからないが、両頬には赤い顔料が施してある。身なりからするに、忍だ。その赤のような濃い橙のような派手な色は、どこぞの忍を思い出させる。そんな男が今、に傘を差しだしている。
「・・・いいの?」
「・・・・・」
何者、とは思ったが、どうやら敵意はないようだしきいてみた。すると相手はこくりと頷き、ずいと傘を押し付ける。
「あ、ありがとう・・・」
はそれを受け取ってさした。
「あなた一体・・・」
どこの忍、と訊くつもりが、すでに男の姿はそこから消えていた。
「・・・?」
なんだったんだと思いつつ、は彩輝の待つ小屋へと急いだ。
外に彩輝はいない。どうやら中で待っていてくれたようだ。・・・否、やはり外に出ていたらしい。扉を開けると、先ほどの忍が布で彩輝の身体を拭いていた。彩輝はまんざらでもなさそうである。
「・・・」
「・・・」
思わずどちらの動きも止まる。
(彩輝が初対面で懐くなんて珍しい・・・)
ぱっと浮かんだのがこれだった。普段なら拒んでいるだろうに。政宗や小十郎も、初めは触れられるのすら嫌がっていた。
「え、と・・・ありがとう。私も、その子も」
「・・・」
忍がふるふると首を振る。気にするな、ということだろうか。
「ねぇ、ほんとにどこの・・・」
忍なの、とはやはり続けられなかった。忍の姿は一瞬にして消え、あとにはと彩輝だけ。入口に立てかけていた傘も無くなっていた。
「・・・なんだったんだろうね、ほんと」
彩輝はただ、首を傾げただけだった。
翌日、甲斐の上田に到着し、彼と同じ忍である佐助に彼の事を話してみた。
「え、それ風魔じゃない?」
「え、あれが伝説の忍、風魔小太郎?」
姿を見た者はいない。見れば命の灯火が消されてしまうから。故に、伝説。それは忍の間では有名な話であり、も噂は耳にしていた。
「でもなんか親切で優しかったんですけど・・・?」
彩輝が懐いてしまうほど。
だがその疑問に答えてくれる者は、いない。
風魔小太郎の存在、本質は、謎、不思議、伝説のままである。
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