襲っちまうぞ


























風吹く微かな音しか聞こえない、静かな夜。夜だというのに空は明るく、月光が障子を透かして部屋を照らしている。そこに、二人はいた。胡坐をかいた上に座らせていたのだが、今はずり落ちて頭が太もも辺りに移動している。いつもは高い所で結っている髪が、辺りに散っていた。


「・・・なんだよ」


何も言わず下からじっと見つめられることに耐えかね、口を開く。


「んー・・・別に?」


しかし返って来たのはそんな曖昧な言葉。彼女は未だ見つめる事をやめない。さらに、右手を伸ばして彼の右目を覆うそれに触れると、そのままごく自然に取り払った。彼の右目が露わになり、月光に照らされる。


「・・・おい?飲んでもねぇのに酔ってんのか?」

「んー?」


彼女は体を起こすと、彼と向き合うように座り直した。そしてまた、じっと彼の顔を見つめる。


「・・・?」


たまにこうして意味も理由もなく気ままに行動することがあるが、今日のは少しおかしい。呼んでも先ほどの様な生返事しか返ってこない。さらに、どうも視線が合わない。確かにこちらを見、こちらも見ているというのに。と、今度は左手が彼の顔に触れた。彼の、二度と開く事の無い右目に触れたかと思うと、すっと顔が近くなる。


「おい・・・!?」


触れたのは一瞬。ほんの少し、冷えた唇。彼は一瞬呆気にとられたが、すぐに口角を上げる。


「んなことしてると、襲っちまうぞ」

「え」


ぐ、と近くなり、塞がる。さらに、入り込む――


「ぐぅ・・・!?」


だがすぐにそれらは離れ、彼は喉を押さえて急にむせ始めた。


「調子に乗るな!!」


どうやら喉仏を力一杯押したらしい。頬を真っ赤に染めてが怒鳴り声をあげた。


「げほ。・・・誘っときながらこれかよ」

「誘ってなんか、ない!!」

「じゃあなんだったんだよ、あれは」

「・・・なんとなく」

「殴るぞ」


あんなの誘ってるとしか思えねぇだろうが。
























頑なに認めようとしないを貸している部屋に帰し、政宗は一人ため息をついた。


「次はホントに襲っちまうぞ・・・」


それをきいたのは、変わらずまばゆく照らす月のみだった。























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choice 2501〜2600

元:襲ってしまうよ

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