「嘘臭い笑顔をありがとう」





















※『話し掛けたのは興味本意』『桜舞う夜に』の続き



















団子のお礼を、と連れて来られたのは、やはり上田城だった。ただしお忍びだったのか、入ったのは正門ではなく裏口。待ち構えているように立っていた人物を見て、は目を丸くした。


「お帰りなさいませ、幸村様」

「おぉ、小介!すまなかったな」

「いえいえ。お役目ですから」


並ぶ二人は瓜二つと言っても過言では無い位よく似ている。


「ところで幸村様、そちらの方は?」

「この方は・・・」


そこでぴたりと幸村の動きが止まる。は軽く首を傾げたが、はた、と気付く。


「そういえば名乗ってなかったね。私は。いろいろ、旅してるとこ」

、殿・・・。小介、この方は某を助けて下さったのだ。丁重にな」

「御意」

「助けたって、そんな大げさな・・・」


はもう呆れるしかなかった。だが幸村は必死に弁解する。


「そのようなことはござらぬ!殿は某に団子を分けてくださり、某を空腹から救ってくれたでござる!」

「どっか行ったと思ったら、やっぱりまーた城下に行ってたんだ?旦那」

「さ、佐助・・・」

(ん?この声・・・)


どこからともなく声がし、音も無く幸村の傍に影が落ちる。はこの声をどこかで聞いた気がした。


「おや佐助、お帰りなさい」

「小介ぇ。だめだろー、旦那を甘やかしちゃあ」

「主の命とあらば、ね」

「あのなぁ・・・」


もしかして、と思いながらは佐助を凝視している。佐助はその視線に応えるようにを見返した。


「やぁ、また会ったねぇ。いや、直接は会ってないから初めましてかな?」

「やっぱり、あの時の忍・・・」

「佐助、殿とお知り合いなのか?」


幸村が首を傾げながら訊く。


「知り合いってほどでもないけど、国境でちょっと、ね」


佐助がに目配せする。もわざわざ言う事ではないか、とただ頷いた。


「そうか・・・。佐助、殿は客人ゆえ、丁重におもてなしせよ」

「はいよ」

「だから丁重とかいいって・・・」


だが幸村は聞く耳持たず。ぽん、と肩を叩かれ振り向けば、小介が苦笑していた。彼の主は頑固者のようだ。


「じゃあこの子は俺に任せて、旦那は仕事に戻りなよ?すーぐ溜めるんだから」

「う・・・わ、わかっておる!佐助、くれぐれもだぞ!」

「はいはい」


幸村は渋々という感じで、城の奥へと向かって行った。


「さて、と」


佐助がに向き直る。


「小介、お前ももう戻れ。俺一人でいい」

「承知」


小介は佐助の命を受け、軽く一礼すると一瞬のうちに姿を消した。


「・・・幸村の影武者、それも忍、か」

「まぁね。で、また同じようなこと訊くけど」

「武田及び真田の害になるようなことは決してしない。幸村に団子を奢ったのは単なる偶然。名乗られるまで気づかなかったし」

「ふーん・・・」


言われる前に言ってしまえ、とは一気にまくしたてた。


「ま、いいでしょ。旦那が連れて来たわけだし」


ふう、と一息ついて佐助が言う。


「丁重にって言われたから、とりあえず丁重におもてなししますよ」


にこりと笑う佐助だが、はその笑顔を素直に受け取れなかった。警戒されているからではない。それは忍として、部下として当然のこと。主があぁ≠ネらなおさらだ。しかしこれは、また別の所にありそうだ。警戒ではなく、心を向けられていないような。は歩き出そうとする佐助に向かって言い放った。


「嘘臭い笑顔をありがとう」


ばっと佐助が振り向く。その表情は、不意を突かれたような、そんなもの。


「本当の笑顔を見せてもらえるように、信頼されないとね」


がにこりと笑うと、佐助は唖然として目を瞬かせていた。



















―――――

セリフ 301〜350

Created by DreamEditor