話し掛けたのは興味本位
武田領に入って最初に辿り着いたのは、上田だった。上田城城下は。活気があって賑わっている。上田をおさめているのは、『虎の若子』と呼ばれる真田幸村。宿敵らしい政宗いわく、とんでもなく熱く真っ直ぐな男≠ネのだとか。それがここ城下にも表れているのだろうか。あわよくばその真田幸村とお近づきになりたいものだと思いながら、は茶店で団子を頬張っていた。皿に乗せられていた団子を平らげて茶をすすっていると、財布と睨めっこをしている青年が目に入った。歳はより一つ二つ下のように見える。
「あと一本分も足りぬか・・・」
肩を落としてため息をつきしょんぼりした姿に、は思わず小さく笑いをこぼした。幸い、彼は気づいていない様子。は数秒彼を何気なく見つめた後、ふっと笑った。この青年と関わってみたい。何故そう思ったのかわからないが、はすでに軽く手を上げていた。
「女将さん、団子もう二本ください」
青年との距離はさほど離れておらず、普通の声量なら充分聞こえる。彼は小さく反応して、ちらりとを見ている。その羨ましそうな目に気づいていないふりをしながら、は追加の団子を受け取って勘定を払った。は団子を一本ずつ両手に持つと、片方を青年に差し出した。
「へっ?」
間抜けな声を上げ、青年が団子とを交互に見る。
「良ければ、一本どうぞ?」
「え!あ、いやっ、そっ・・・某は、我慢、できます、ゆえ・・・!!」
軽く頬を染めて首を目一杯振って遠慮しているが、目は団子から外れない。
「ほしいんでしょう?」
「う・・・」
どうやら嘘がつけないタチらしい。
「どうぞ?」
「か・・・かたじけないでござる・・・」
青年はすまなさそうな顔で団子を受け取ったが、手にした次の瞬間には嬉しそうに顔を綻ばせていた。すぐ顔に出て、自分に正直な、真っ直ぐで、少し子どものような青年だとは思った。団子を嬉しそうに頬張る彼は、見ていてとても微笑ましかった。
「かたじけのうございました!なんとお礼を申したらよいか・・・」
団子を食べ終わって立ち上がった後の青年の第一声だ。深々とお辞儀付きで。
「いや、お礼なんていいよ。団子一本だし、そんなつもりでお裾分けしたわけじゃないし」
「そういうわけにはまいりませぬ!そうだ!お礼をさせていただきたい故…」
彼にとっては団子一本でも重大な事らしい。軽く呆れながら聞いていたが、次の言葉を聞いた途端、一瞬思考が止まった。
「ぜひ、某の城へ来て下され!」
「・・・はい?」
彼は今何と言っただろうか。
(・・・城、って、言った・・・?)
ここは上田。上田城の城主といえば。
「・・・まさか」
「そういえばまだ名乗っていなかったでござるな!某は、真田源二郎幸村。お館様から、ここ上田を任せられているでござる!」
力強く言う彼の首元で、六枚の文銭が揺れる。真田家の家紋は六文銭。そして真田幸村自身も、いつも六の文銭を身につけているという。
何故、気付かなかったのだろう。
女将さんを見ると、ただただ苦笑していた。はしばらく、開いた口が塞がらなかった。
―――――
メルマガ125踏
Created by DreamEditor