傍から見れば、恋人同士
穏やかな風が吹く中、一組の男女が縁側でくつろいでいた。ここ、高松城の城主である毛利元就と、幼馴染のだ。
二人の間には茶と、ほどほどの量の茶うけが置いてある。しかし元就の茶うけはあまり減っていなかった。
「元就、もう食べないの?」
「・・・あぁ。食っても良いぞ」
言って元就は茶を口にする。
は元就の器を手にしばしそれを見つめた後、何か思いついたように元就を見た。元就はよそを見ているため、気付いていない。
「元就」
「なん・・・?!」
は、自分の方に向いた元就の口に、饅頭を突っ込んだ。元就は不意を突かれてむせる。
「・・・・!な、んだ・・・!?」
「食べないなら食べさせてあげようかと」
「いらぬ世話だ!!」
元就が声を荒げるが、は悪びれた様子もなく、全く気にしていない様だ。庭を眺めながら茶をすすっている。
(まったく・・・人の気も知らんでのん気なものだ)
元就がため息をつくと、が顔を向けた。
「どうかした?」
「別に、何もない」
「そう?あ」
元就が顔をそむけたとき、が何かに気づいて元就に手を伸ばした。
元就が、何事かとを見た時にはその手は彼の口元に触れており、離した時には饅頭の食べかすがついていた。
「・・・・・」
はそれをじっと見つめたかと思うと、
「なっ・・・!!」
躊躇なくそれを自らの口にした。
「っ・・・にをしている!!?」
「え、何って、ついてたから」
「そういう問だ・・・」
元就はそこで口をつぐみ、赤く染まってしまった顔を隠すように手で覆った。
(こいつにとってはそういう問題なのだろうな・・・)
元就は再びため息をついた。その頬はまだ少し熱を帯びている。ちらちとを盗み見れば、はまた庭を見ていた。
元就も高まった鼓動を落ち着かせるために、庭の木々と、彼の崇拝する日輪を見つめた。
その一部始終を、廊下の角から見つめている者が数名いた。元就の部下たちである。彼等は二人を見て、一斉に小さくため息をついた。
「どー――見ても恋仲なのになぁ」
「強引だけど食べさせて差し上げてるし…」
「無意識だけどついたの取ってあげて…」
「だが、当人らにその気がまったく、なぁ…」
「いや、元就様は・・・」
「・・・あぁ、そうだ。元就様は、違うぞ」
「でも様は気づいておられない様だしなぁ」
「鈍いというか、これが当たり前になってしまっているからだろうな」
(((元就様、お可哀相に・・・)))
「へぐしっ!!」
「へくしっ!!」
密かに見られていると元就が、同時にくしゃみをこぼした。
((風邪か・・・?))
噂されているとはつゆ知らず、二人はまたしばらく庭の景色を楽しんでいた。
―――――
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