2度目の『初めまして』
※『名前を聞いていない』の続き
祭の賑やかな音で目が覚める。はあれから宿をとり、京で一晩を過ごした。翌日の今日も祭はまだまだ続くらしい。
もう一日楽しもうかと、は再び京の街を歩いていた。
昨日は回りきれなかった店や新しく出た店を見て回っていると、前方に女性ばかりの人だかりがある事に気づいた。
その中心にいるのは、長身の黄色。
「・・・・・」
改めて礼を、とか、名前を聞いていないから、とか、用件はあるが、今は関わりたくないと思った。
しかしの進行方向にその人だかりはある訳で。その横を通らなければ道はない訳で。
覚悟を決めて素知らぬふりで通過しようとしたが、「キキッ!」という鳴き声に反応して彼の方を見てしまう。と。
「あ」
「・・・・・」
目が、合ってしまった。
「ちょっ、ちょっと待ってよ!」
女性たちに囲まれているのをいいことに、は走って逃げた。
後ろで、「ちょっと慶ちゃんあの子何なんー?」とかなんとか聞こえてきたが、お構いなしだ。
「あー!ッ、夢吉!」
「キキッ!」
の姿は、すでに雑踏の奥に消えていた。
「はー・・・」
逃げてしまった。なんか、反射的に。
しかしあそこで声をかけていたら、あの女性たちに何を言われるか、どんな目で見られるか。そんな面倒事は勘弁したいところだった。
人気あるんだなぁ、と思ったりするが、あの風貌であの気さくな性格ならわかるかもしれないと納得する。
疲れた、と深く息を吐くと、視界に何か茶色いものが飛び込んできた。ふと顔を上げると目が合い、きょとんと互いに見つめあう。
「あれ、あんた・・・」
「夢吉!」
「キッ!」
「あ」
その小猿―夢吉は呼ばれると走って行き、その肩に登った。ザッと足音が近づく。
「びっくりしたよ。目が合った途端逃げ出しちゃうからさ」
「いや、あの、ごめんなさい。なんか反射的にというか、身体が勝手に動いたというか」
あなたが女性たちに囲まれていなければ逃げなかったんだろうけど、とまでは言わない。
「昨日の今日でまた会うなんて、運命かな?」
「あいにく運命なんてものは信じないので」
「あはは、そっか」
本人も冗談で言ったらしく、軽く笑った。
「とりあえず、昨日はありがとう。で、初めまして」
「え、なんで?」
首を傾げる彼が、なかなかの大男だというのに、何だか可愛く見えた。
肩で同じように小首を傾げる夢吉が際立たせているのかもしれない。
「名前、聞いてないと思って」
「あぁ!そっか、そうだよな。俺は前田慶次。よろしく!」
「・・・前田の風来坊・・・?」
「よく知ってるなぁ。そう、それ俺」
なるほどこの男が前田の風来坊≠ゥ、とは慶次をじっと見た。またもや一人と一匹が首を傾げる。
「それで、君は?」
「あ、私は。まぁ、よろしく」
「か。いい名前だな」
「・・・褒めても何も出ないよ」
言うと慶次はまた笑った。
そのあと「もう行くから」と慶次と別れ、は彩輝を連れて京を出た。
「前田慶次、か」
の口元に笑みが浮かぶ。
また、会えるといいな。
今度は『初めまして』じゃないけれど。
―――――
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