名前を聞いていない
















桜吹き舞う京の街。祭が行われているらしく、屋台がいくつも並んでいた。
、18歳の一人旅。否、一人と一頭の旅。愛馬・彩輝は街入口の馬屋に預けてある。
安芸でももちろん祭はあるが、ここまで華やかで賑やかなものは初めてだ。露店も多く出ており、珍しい物が沢山あった。
それらを眺めながら人ごみの中を歩いていると、ドンッと誰かに強くぶつかった。


「あ、すみませ・・・」

「いってぇなぁ。いきなりぶつかってきてよぉ。・・・ヒック」

「・・・・・」


ついてない。は正直に思った。よりにもよって酔っ払いにぶつかって絡まれるとは。
元々悪党であるなら返り討ちにしてやるのだが、ただ酔っぱらっているだけの人は、根が良い人も多い。
特に、今日は祭だ。酔っ払いがそれら中にいてもおかしくはない。


「どうしたぁ?」

「あぁ、嬢ちゃんがいきなりぶつかってきてよぉ」


増えた。
はため息をつきたくなったが、なんとかこらえた。男二人に、どんどん裏道に追いやられていく。
周りの人たちの目には、彼女たちの姿は映っていないらしく、気付く様子もない。


(最悪・・・)


トンッと壁に押し付けられる。


「嬢ちゃん可愛い顔してんじゃねぇかぁ。オレたちと飲もうぜ?」

「お断りします」

「そんなつれないこと言うなよぉ」

(酒臭い・・・)


酒は嫌いじゃないが、こう変に絡んでくる酔っぱらいは嫌いだ。


「・・・お金を払えば満足ですか?」

「あー?そういう問題じゃねぇってーの!なぁ、オレたちと飲もうぜー?朝までなぁ」

(・・・下衆)


自然に顔が歪む。


「じゃかぁし「まぁまぁ兄さん方、落ち着こうや。その娘、嫌がってるだろ?」


強行突破に出ようと刀に手を添えたとき、表通りの方から声がした。三人そろってそちらを向く。


(・・・誰)


体格はがっしり、髪はと同じように高い所で一つに結っており、肩にはなぜか小猿が乗っている。
その格好は黄を主とした派手なもの。傾奇者≠ェよく似合う。そして肩から後ろ手に持っている、大きな刀。


「女の子一人に男が二人がかりなんてかわいそうだろ?それに・・・」


傾奇男の目がちら、との手元に向く。


「離してあげないと、彼女の刃がお兄さん方に向くかもよ?」

「「!?」」

「・・・・・」


男たちは刀に手が添えられたままのの手元を目視すると、一瞬にしてから離れた。


「ッ・・・じゃ、じゃあな!今度から気をつけろよ!!」


そして捨て台詞のように言い、そそくさと逃げて行った。














「大丈夫だったかい?」


が何気なく男たちの逃げ姿を見送っていると、傾奇男が横に並んだ。


「余計なお世話だったけど、ありがとう」

「ははっ!言うねぇ」


傾奇男が笑うと、肩の小猿が「キキッ」とないた。


「それじゃ、もう酔っ払いなんかにからまれるなよ?」


ぽんっと頭を撫でられ、は顔をしかめるが、傾奇男は気にせず笑って去っていった。


(変な奴・・・でもまぁ、嫌いじゃないけど。・・・あ)


はふと思って傾奇男が去っていった方を見た。


「名前、きいておけばよかったかな」


呟いても答えてくれる相手はいない。まぁ、縁があればまた逢うだろう。
はひとつ息をついて、賑やかな街中へと戻っていった。














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