初めてのおともだち
初めてのおともだちは、3歳の女の子でした。
その日、松寿丸の父・弘元が連れて来たのは、中国でも名高い商人である真暁と、その娘のだった。
えは松寿丸の2つ下で、3歳だという。
「、こちらが松寿丸様だ」
は数秒じっと松寿丸を見つめた後、こてんと首を傾げて言った。
「しょーじゅまる?」
「、様、とお呼びしなさい」
「・・・しょーじゅまる、さま?」
「あぁ、そうだ」
真暁が頭を撫でると、は嬉しそうに笑った。
「子ども同士だ、構わぬぞ」
「しかし、弘元様・・・」
「お前もそう思うだろう?松寿丸」
聞かれてもよくわからない松寿丸は、とりあえず頷いた。
「しょーじゅまる、でいいの?」
「あぁ、もちろんだ」
なんとなく理解したらしいに弘元が言う。
「松寿丸、私たちは商談の事で話がある。その間、お前がの面倒を見ているんだ」
「ぼく、が?」
「あぁ。松寿丸の方がお兄さんなのだからな」
言うと弘元は松寿丸の頭を撫で、真暁と共に別室へ移った。
残された2人は、しばらく間父たちが出て行った襖を見つめていた。
ふと先に我に返ったのはだった。未だぼーっとしている松寿丸をじっと見、ちょこちょこ近づく。松寿丸は気づいていない。
そんな松寿丸に、は背後から、抱きついた。
「ッ!!?」
松寿丸が驚いて勢いよく振り向く。すると。
ゴンッ
「〜〜〜〜〜ッ!!」
「いったー―――!!」
鈍く盛大な音が部屋に響き、両者とも額をおさえてうめいた。
「う〜〜〜〜〜」
「・・・ごめん。いたかった、よね」
こくん、と額をおさえたままがうなづく。涙が流れるのを必死にこらえているらしく、目いっぱいに水がたまっている。
「・・・なかないんだな」
「・・・なくのは、うれしいときと、ほんとうにかなしいときだけだって、とうさまにいわれたから」
「・・・そう」
本当に悲しいとき
松寿丸の心に重くのしかかる。俯きがちになってしまったその頭に、ぽんと何かが乗せられた。小さな小さな手。
「しょーじゅのかあさま、いなくなっちゃったんでしょ?しょーじゅ、ないた?」
見透かされたような問い。そして松寿丸ははっと思い出した。そういえば。
「・・・ないてない」
「かあさまなのに?」
「なんでかは、わからない」
なんとなく、ただなんとなく、泣いてはいけない気がしたのだと思う。
「じゃあ、ないていいよ!」
「・・・え?」
の手を頭に乗せたまま、松寿丸が顔を上げる。は、微笑っていた。
「とうさまがね、『なくときは、ひとりじゃなくて、ださかのそばでなきなさい。そばでなけるひとをさがしなさい』って!よく、わかんないけど」
それは松寿丸にもよくわからなかった。だが、なぜだかの手の温もりがとても温かくて、懐かしくて、いつのまにか、その両目からは涙がこぼれ出していた。
こんな小さな手、知らないはずなのに。
「さえも、かあさまがいなくなっちゃったら、かなしくて、ないちゃうよ・・・・・かあさまぁ」
母がいなくなることを想像したのか、もまた、涙をこぼしていた。小さな嗚咽が部屋に響く。2人はしばらくの間、静かに泣いていた。
そして。
弘元と真暁が戻った時、2人は仲良く寝息を立てていたという。
2人がお互いを必要とし、友となった日。
約10年後、それが少し変わるのは、まだ知る由もない事。
―――――
戯言&人間シリーズ 001〜050
Created by DreamEditor