告白
中学生最後の夏休みを利用して、は祖父や叔父一家、そして弟・廉が暮らす群馬県に遊びに来ていた。
従妹の瑠里に一言言って外に出る。暑い陽がを照らしつけるが、は目を細めただけですぐに足を進めた。
向かう場所は、廉が通う、三星学園中等部。夏休みでも練習はもちろんあるので、見に行く事にしたのだった。
学園のグラウンドに着き、フェンス越しに彼らを見る。今は休憩中のようで、行き交うボールは無い。
廉を探していると、良く見知った相手と目が合った。彼は近くにいた子に一言告げて、の方へ駆け寄ってきた。
「久しぶり、。元気だったか?」
「久しぶり、修。元気よ、元気じゃなかったら来てないし。ていうか、呼び捨て。いい加減にしろっての」
叶修悟。廉との、群馬での幼馴染。いとこ一家のお向かいに住んでいて、小さい頃はよく一緒に遊んだものだ。
年下に呼び捨てにされることを嫌がるはいつもやめろと言うのだが、叶は全くやめる気配はない。今回も、聞かぬふりをしているから無理だろう。
「三橋、呼んでこようか?」
「あー、いいよ。休ませてあげて」
廉を呼びに行こうとした叶に首を振る。会うのは家でも会えるのだから、休憩時間を削る事は無い。
「わかった。これからどうするんだ?」
「終わるまではいるよ。廉と帰るから。何かあるの?」
「・・・ちょっとに用事が。終わってもすぐ帰るなよ!」
誰かが叶を呼び、彼は走って戻って行った。休憩が終わったらしい。何だろうと思いながらは近くのベンチに腰掛け、終わるまで練習を観ていた。
「!」
着替えた叶が走って来た、よくよく見ると、服のボタンを掛け違えている。そんなに急ぐことがあるのだろうか。後ろから廉が駆け寄って来るのも見えた。
「ちゃんと待ってたよ。で、用って何?」
「あぁ、あのさ」
叶がスッと一歩近づく。気がつけば叶の顔が目の前にあり、唇に、何かが触れていた。一瞬とも思えるそれはすぐに離れ、叶の顔も遠のく。
「オレ、のこと好きなんだ」
叶の表情は真剣そのもの。が、突然目にしてしまった光景に、叶の後ろにいた廉は他のメンバーは固まってしまっている。
そして、叶の目の前にいるも、口が半開きで呆然と叶を見ている。叶はただゆっくりとの返事を待った。
「・・・あー・・・いや、えっと・・・」
なんとか言葉を紡ぎだそうとするの目線は定まっていない。しばらくそんな状態だったが、は真っ直ぐ叶を見た。
「ごめん、修。あんたのこと、そういう風に見れない」
「・・・・・」
「・・・・・」
しばしの沈黙が流れる。後ろのメンバーも、冷や冷や緊張気味に二人を見守った。
「・・・わかった。それだけ、だから」
「・・・ん。帰るよ、廉」
「あ、う、うん」
は叶に背を向けて歩き出した。その後を廉が慌てて追っていく。
「か、叶・・・」
畠が控えめに声を掛ける。叶は緊張していた肩を落とし、大きく息を吐いた。そして、もうほとんど見えなくなったの後ろを見つめた。
「やっぱ一筋縄じゃいかねぇか」
「え?」
叶は落ち込む様子など無く、むしろ笑っていた。
足早に歩いて行くに、廉はついていくのが精一杯だった。
「ね、ねえちゃ・・・」
それをきいてか、ぴたりとの足が止まる。廉はおそるおそるの顔を覗き込み、びっくりして目を丸くした。
の顔は、真っ赤に染まっていた。涙こそ出てはいないが、両拳を握りしめ、肩はわなわな震えている。
そしてその目は、公衆の面前でキスを、それもいきなりファーストキスを奪われたという恥ずかしさや何とも言えぬ思いで満ちていた。
「ね、ねえちゃ・・・」
廉の声も耳に入らぬようで、はまた進みだした。今度は廉が何度呼んでも、家に着くまで一度も止まらなかった。
それから叶は、その告白事件を知った瑠里に一発殴られ、廉からはいつも以上にオドオドした、心配そうな目で見られた。
そしては、高校二年のゴールデンウィーク合宿まで、一度も群馬に行かなかった。
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告白・・・心の中を打ち明ける事。
おおきく振りかぶって【この青い空の下で】
ファーストキス事件。のファーストキスは叶です。叶は弟みたいな感じです。瑠里ちゃんはさん大好きっ子です。
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